【出典】方函口訣
【組成】当帰、柴胡、黄芩、甘草、升麻、大黄
【効能】清熱化湿・活血・升提
【主治】脱肛、痔、痔核の脱出、痔の出血など
【適応症】脱肛、痔、痔核によって肛門部の腫れ・疼痛、痔の出血、痒みなど、あるいは前陰部がかゆく痛み、気分が落ち着かないもの、舌苔は黄膩、脈は弦滑。
【方解】本方は乙字湯の原方から生姜、大棗を除き、当帰を加えて組成されたものである。
柴胡、升麻は軽清升提により気機を通達し、肛門周囲筋肉の緊張を正常化させ、脱出した肛門や痔核を復位させる。黄芩は清熱化湿に働き、炎症や浮腫を治療する。大黄は苦寒瀉熱・通便の効能があり、消炎・通便により黄芩を補助する。当帰は活血補血により痔や肛門の瘀血性腫脹を除く。甘草は諸薬を調和し、また緩急の作用により筋肉のけいれんを緩解し肛門の脱出部分の還納を容易にする。全体は当帰、柴胡、升麻の鎮痛作用、大黄の抗菌作用、緩下作用、升麻の肛門部潰瘍発生の抑制作用、さらに当帰、柴胡、黄芩、甘草、升麻、大黄による抗炎症作用などが複合され、肛門部の疼痛、充血、浮腫、炎症などをのぞき、止血する効果が得られる。
【参考】
現代薬理研究によって、以下の作用が証明されている。
1、消炎・鎮痛作用。
2、肛門の浮腫を抑制する作用。
3、多量の投与によって血管透過性を抑制する作用。
4、皮膚機能(皮膚酸化還元能、膨疹吸収時間、皮膚復元時間、毛細血管抵抗など)を促進する作用。
5、通便作用など。
【臨床応用】
本方は脱肛、痔、痔核によって肛門部の腫れ・疼痛、痔の出血、痒みなどの症状を認める場合に適応される。
(1)痔、痔出血:痔や痔核などにより、肛門部の腫れ・疼痛、痔の出血、痒み、便秘などの症状が見られる場合に本方を用いる。痔核が腫れて色が紫暗で、痛みが強い場合には乙字湯合桂枝茯苓丸を用いる。炎症反応がひどく、痔出血が見られる場合には乙字湯合黄連解毒湯を投与する。
(2)脱肛、痔核の脱出:脱肛、痔核の脱出、浮腫、残便感などの症状が見られ、便秘を伴う場合には本方を投与する。脱出部分が還納しにくく、体がだるくて疲れやすい場合には乙字湯合補中益気湯を用いる。
(3)産後の痔疾、会陰切開縫合部の局所的疼痛:分娩後2週間以内に痔疾患が認め、肛門部に疼痛、浮腫、脱肛・脱出などの症状があり、また会陰切開縫合部に局所的痛みがある場合には本方を投与するとその諸症状の改善が期待できる。
【使用上の注意】
(1)本方は血圧が高く、顔面紅潮、怒りっぽいものに適応しない。
(2)体がだるくて疲れやすい・下痢などの虚証が見られる場合には本方を投与しない。