【組成】柴胡、芍薬、枳実、炙甘草
【効能】疏肝解欝、理気止痛、透熱
【主治】
1、肝気欝結、肝脾不和
抑うつ感、ゆううつ感、精神不安、いらいら、胸が苦しい、胸脇部が脹って痛い、腹部膨満、腹痛、食欲不振、便秘と下痢が交互にくる、舌質が紅、舌苔が薄白、脈が沈弦あるいは弦。
2、熱厥
発熱、体の熱感、胸脇部が脹って痛い、腹痛、下痢、口が苦い、悪心、四肢の冷え、舌質が紅、舌苔が黄、脈が弦数。
【処方解説】
肝脾不和に対しては、疏肝解欝の柴胡と補血の白芍で肝気を条達させ、枳実で脾気の停滞を疎通するとともに柴胡の疏泄を補助し、炙甘草が諸薬を調和する。白芍と甘草は、肝陰を滋養し、柴胡の疏泄による肝陰の消耗を防止し、さらに緩急止痛の芍薬甘草湯の意味をもつ。全体で、疏肝解欝をし、肝の疏泄機能を順調させ、脾胃の機能を高め、肝脾を調和する。
少陰病四逆に対しては、柴胡で透邪疏欝して気機を通暢にし、行気破滞の枳実がこれを補助する。白芍は補血、和営に、炙甘草は和中緩急に働き、共同して急迫をしずめ止痛する。柴胡の昇と枳実の降で気機の昇降を調節し、炙甘草と芍薬で気血を調節し、陽気を調暢にして邪気を除く。
【参考】
現代薬理研究によって以下のことを証明している。
1、 肝保護・利胆作用:(1)動物実験によって本方が実験的肝障害の進行を抑制し、肝細胞の変性壊死を著明に軽減する。(2)胆汁の排出量を増加することを報告している。
2、 抗消化性潰瘍作用:実験性ラットの胃潰瘍に本方を投与することにより、胃液分泌を抑制し、潰瘍の癒合を促進することを認める。
3、 本方は動物実験によってウサギの腸管運動を抑制し、薬物による腸痙攣を解除することを認めている。
4、 強心作用・血圧上昇作用:本方は麻酔された犬に静脈から投与することにより、心筋収縮力の増強、心拍の増加、血圧上昇などの効果を認めている。また本方はPentobarbital(PB)の投与による心筋収縮力の低下や心臓拡大など急性心筋損害を対抗する作用がある。
5、 マウスに本方を投与することにより、酸素欠乏でマウス死亡までの生存時間を延長させたことを報告している。
6、 その他に本方は解熱、鎮痛、鎮静、鎮痙、脳血流の改善、血栓形成の抑制、微小循環の改善、血小板凝集の抑制など作用がある。
7、 まとめてみると、解熱、鎮痛、鎮静、鎮痙、肝保護、利胆、抗潰瘍など作用は、本方の和解肝脾の薬理基礎であり、また強心、血圧上昇、抗ショック、脳血流の改善、微小循環の改善、血小板凝集の抑制、酸素欠乏の対抗など作用は、少陰病証を治療する薬理基礎であると考えられる。
【臨床応用】
本方は、元々、傷寒少陰証で熱が裏に停滞するが、手足が逆に冷たい病態を治療するために設計した処方である。しかし本方は肝脾を調理し、表裏を調和する作用があるため、後世では、和解剤の名方として広く使われている。
1、慢性肝炎:
季肋部の苦満感や疼痛を訴え、あるいは右肋骨弓下部に抵抗、圧痛がある胸脇苦満症状、悪心などの症状が認められる場合には用いる。黄疸が見られる場合には茵陳蒿湯を合方する。食欲不振の場合には六君子湯を合方する。
2、胆嚢炎、胆石症:
心窩部のつかえ感、疼痛、あるいは季肋部の苦満感を訴え、みぞおちや肋骨弓下部に抵抗、圧痛があり、食欲不振、悪心、胸やけなどの症状を伴う場合に用いる。
3、胃腸神経症、胃食道逆流症、慢性胃炎、胃潰瘍:
上腹部の痛み、悪心、嘔吐、胃部の不快感、胸やけ、腹部膨満感、食欲不振などの症状がある場合には用いる。腹部膨満感がひどい場合には半夏厚朴湯を合方する。
4、神経症:
胸苦しい、胸部の煩悶感や痛み、腹部膨満感などの症候が見られる場合には本方を投与すると効果が得られる。精神不安、いらいら、動悸、不眠、抑うつ感などの症状を伴う場合に甘麦大棗湯を併用する。
5、その他に、腸炎、過敏性腸症候群、盲腸炎、月経前後症候群、更年期障害、急性乳腺炎、肋間神経痛、咽喉炎、神経性頭痛、三叉神経痛、てんかん、ヒステリー、咽喉部の異物感(梅核気)、自律神経失調症などの疾患で、季肋部の苦満感(胸脇苦満)、あるいは心窩部の痞え感、精神不安、いらいら、動悸、不眠、抑うつ感などの症状を伴う場合には本方を投与してもよい。
使用上の注意:
1、体力が著しく衰えている者、いわゆる気虚の者に投与しない。
2、慢性下痢がある者には慎重に投与する。