【組成】厚朴、枳実、大黄、芒硝
【効能】峻下熱結
【主治・適応症】
1、陽明病腑実証
便秘、ガスがよくでる、腹部膨満感、腹痛、腹部が硬く圧痛がつよく触れさせない、甚だしい時に潮熱、意識障害、うわごと、興奮状態、手足に汗がでるなどを呈する。舌質は紅で乾燥、舌苔は黄厚あるいは褐色で乾燥、脈は沈実で有力など。
2、 熱結旁流
悪臭で水のような下痢が見られるが、腹痛、腹部膨満感、腹部が硬く圧痛があり、口腔や舌の乾燥感、脈は滑実などの症状も見られるもの。
3、高熱、熱性けいれん、あるいは興奮状態、精神異常などの症状が見られる裏実熱証のもの。
【処方解説】
本方は熱結に対する代表処方であり、痞(胸部や上腹部のつかえ感・重圧感)・満(腹部の膨満感と抵抗)・燥(口や舌の乾燥感、糞便の乾燥と堅硬)・実(腸内の糞便停滞、腹部が硬く圧痛が強い)の4症候に対応する処方である。
大黄は苦寒で瀉熱通便・蕩滌腸胃の効能があり、主薬となる。芒硝は瀉熱通下・軟堅により大黄の攻下瀉熱を補助し、乾燥した糞便を軟化するとともに瀉下によって熱結を除去する。厚朴は苦温で寛中行気の効能があり枳実は苦寒で破気導滞に働き、腑気を通じて痞満を除き、大黄・芒硝の瀉下の効能をつよめる。全体で胃腸の実熱積滞を峻下し、胃気を下行させ、閉塞を通暢させて熱結の病態を改善する。
【参考】
本方は、現代薬理研究によって、以下の作用が証明されている。
(1)胃腸の蠕動を増強させる、(2)腸内移送を促進する、(3)著しい瀉下作用がある、(4)炎症初期の毛細血管透過性を低下させ、炎症滲出を減少させ、炎症の拡散を抑制する、(5)腸管の血液循環を促進し血流量を増やし腸管の虚血状態を改善する、(6)抗菌作用、(7)抗炎症作用、(8)利胆作用など。
【臨床応用】
本方は熱結を峻下し、痞・満・燥・実の実証を治療する処方である。便秘、腹部膨満感、腹部が硬く圧痛が強い、甚だしい場合には潮熱、うわごと、意識障害、狂燥状態を呈する裏実熱証に本方を用いる。
(1)単純性イレウス、まひ性イレウス、閉塞性イレウス:
腹痛、腹部が硬く圧痛と抵抗が強い、便秘、潮熱、腹部膨満感など症候を認める場合には本方を投与する。病気の早期に本方を投与するとよい効果が得られる。血液循環障害を伴う場合には大承気湯に桃仁・紅花・莱服子を加えて用いるがその代わりに大承気湯合桃核承気湯を用いてもよい。狭窄性イレウス、ヘルニア・腫瘍によるイレウスに対して効果がない。
(2)急性胆嚢炎、胆道回虫や胆石症に伴う胆道感染症:
胆嚢や胆道に感染があれば、発熱、腹痛、嘔吐、黄疸などを主症状として現われる。発熱や黄疸が見られる場合には大承気湯合茵蔯蒿湯を投与する。寒熱往来、嘔吐、腹痛などの症状が見られる場合には大承気湯合小柴胡湯を投与する。
(3)急性膵炎:
人体や体外の実験によって大黄が多種の消化酵素を抑制する作用があり、特に膵酵素活性化を強く抑制することを証明している。急性膵炎には腹痛、腹部膨満感、便秘、悪心などの症候が見られる場合には早期に本方を投与すると症状の早期改善や治癒率の高めなどの効果が得られる。
(4)腹部手術後の腸麻痺:
腹部手術後に腸の動きが良くない場合には本方を保留浣腸すると、よい効果が得られる。一般的に浣腸後12-24時間以内に排気・排便が見られ、腸管の蠕動機能が回復することが報告されている。
(5)重症嘔吐:
嘔吐は臨床上で多種な疾患によく見られる症状の一つである。急性・重症の嘔吐に対して邪毒が胃腸の機能を阻害し、腑気不通・濁気上攻によって嘔吐が繰り返して治りにくい。その場合には大承気湯を保留浣腸することにより優れる効果が得られる。
(6)急性感染性疾患(急性肺炎、脳炎、流感、産後高熱など):
瀉下の方剤は温病の治療に対して重要な役割を果たしている。特に火邪上亢・熱毒内結・火熱傷津などの症候に対して優れる治療効果が得られる。高熱が続き、便秘がひどく、腹部膨満感などは本方を投与するポイントである。
(7)急性肝炎:
急性肝炎は熱毒が盛んで大便が堅硬不通で腹部膨満感などが見られる場合には大承気湯合小柴胡湯を用いると腹部症候の解消だけではなく肝機能障害も改善される。黄疸、便秘、腹部膨満感などが見られるときには大承気湯合茵蔯蒿湯を投与する。
(8)便秘:
体力充実な人で、熱感、便秘や腹部膨満がひどく、一般的な便秘薬が効かない場合には本方を用いる。特に脳梗塞や脳出血の患者に顔色の紅潮、便秘、腹部膨満感、悪心、嘔吐などの症候が見られる場合には本方を投与する。
他に、急性腎炎、精神分裂病、食中毒、急性肺水腫、原因不明の高熱などの疾患に、便秘、高熱あるいは熱感、腹部膨満感など、痞・満・燥・実の症候が見られる場合には本方を投与してもよい。
【使用上の注意】
(1)本方を投与してから便通がつけば使用を中止する。
(2)老人、小児、妊婦、体質虚弱の人に投与しないように、必要な場合には補剤を配合して用いる。
(3)本方は正気を消耗するので長期間に投与しないように注意する必要がある。