第十節 便秘
一、概説 |
便秘は患者の排便困難及び排便回数の減少を指す。臨床的には硬便、排出困難があり、硬い便が腸の粘膜を損傷すると便の表面には少量の血液や粘液が付着し、排便時に肛門が痛く、重症の患者では脱肛などの症状が見られる。便秘の症状が長く続くと、食欲不振、腹部膨満、疲労、脱力などの症状も現われる。 中医学では便秘のみを治療するだけではなく、患者の体質改善、胃腸機能の調整、便秘の原因の排除などから治療することが多い。臨床的には患者の体質状態、臨床症状、胃腸機能の状態の違いによって熱結便秘、気滞便秘、血虚・陰虚便秘、気虚便秘、陽虚便秘、血?便秘などのタイプに分けて治療する。 |
二、病因病機 |
便秘はいろいろな原因に関わっている。 |
1、 胃腸燥熱 辛いものの取りすぎ、油濃いものの食べすぎ、お酒の飲みすぎ、温熱薬の長期間投与、あるいは肺熱が大腸に下降する、あるいは熱邪が体に侵入するなどは胃腸に燥熱を集結するため、津液を損傷し、津液の不足の原因で便秘を引き起こす。 |
2、 脾気虚弱 慢性病気、飲食の不摂生による消化機能の低下、老人の虚弱などが原因で脾胃虚弱の病態をもたらす。気虚は大腸の伝導機能が弱くなり、排便も無力になり、便秘を起こす。 |
3、気機阻滞 気にしやすい、抑うつ、精神的なストレス、運動不足などが原因で胃腸の運化機能が乱れ、伝導機能失調を起こし、便秘になる。 |
4、陰虚腸燥 疲労(精神的、肉体的、性的疲労)、汗の出すぎ、熱性疾患の回復期などは陰液を消耗され、津欠陰虚(大腸の津液不足)の病態をもたらし、便秘を引き起こす。 |
5、 脾腎陽虚 平素陽虚(生理機能の低下)、冷たいものの取りすぎ、老人、苦寒薬の長期間投与などは脾腎の陽気を損傷し、脾腎陽虚の病態を起こす。脾腎は陽虚となれば、胃腸の機能が低下し、内寒を生じる。陰寒が大腸に停滞するため、冷えや便秘などの症状が見られる。 |
三、弁証論治 |
便秘は単純な症状であるが、原因が複雑である。弁証する場合にはまず寒・熱・虚・実を弁別することが重要なポイントである。 |
(一)熱結便秘 |
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(二)気滞便秘 | ||||||||||
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(三)血虚・陰虚便秘 | ||||||||||
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(四)気虚便秘 | ||||||||
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(五)陽虚便秘 | ||||||||||
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(六)血瘀便秘 | ||||||||||
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五、ポイント症候によるエキス剤の使い方 |
臨 床 症 状 | 漢方エキス剤 |
★発熱、便秘、排便困難、口渇、口臭、いらいら、腹部膨満、あるいは悪心、嘔吐などの場合。 | (74)調胃承気湯 |
★便秘、腹部膨満、あるいは悪心、嘔吐がある場合。 (84)大黄甘草湯 | (84)大黄甘草湯 |
★発熱、便秘、口渇、いらいら、腹部膨満がひどい場合。 | (133)大承気湯 |
★便秘がストレスや気持ちに左右される、腹部の膨満感や痞え感、ガスがよくでるなど場合。 | (16+84)半夏厚朴湯合大黄甘草湯 |
★便秘、貧血あるいは貧血気味、老人便秘などの場合。 | (51)潤腸湯 |
★体力の低下した人で、兎糞様の便、下腹部の膨満感などの場合。 | (126)麻子仁丸 |
★排便の力がない、或は排便後は汗が出て、疲労脱力感、脱肛など場合。 | (41)補中益気湯 |
★便秘、下腹部の抵抗や圧痛、女性の生理不順・生理痛あるいは子宮筋腫や卵巣腫瘍などの場合。 | (61)桃核承気湯 |
★体力の充実した人で、高血圧傾向、便秘、肥満などが見られる場合。 | (62)防風通聖散 |
★体力の充実した人で、便秘、季肋部の苦満感、脂肪肝を伴う場合。 | (8)大柴胡湯 |
★体力の充実した人で、いらいら、精神興奮・不安、顔面紅潮を伴う場合。 | (113)三黄瀉心湯 |
★体力の充実した人で、便秘、高血圧、生理痛、頭痛等を伴う場合。 | (105)通導散 |