第十一節 肛門掻痒症
肛門掻痒症は疾患ではなく症状であって、局限性皮膚疾患に見られる。掻痒感は一般的に肛門周囲に限局するが、ときに会陰前部まで達する。肛門掻痒症は、原発性皮膚疾患あるいは肛門周囲の局所的な状態により、肛門周囲皮膚への直接の障害が原因で起こる。また肛門周囲の湿気や糞便による汚染などで発症することもある。 中医学では肛門掻痒症は“風掻痒”、“痒症”、“痒風”の範疇に属する。中医学の治療は掻痒の症状を止めるだけではなく、患者体質の改善、胃腸機能の増強、局部病態の軽減などの効果が認められる。 |
一、病因病機 |
本病の病因は内因と外因がある。内因が発病の主な原因であり、気血失調に関わり、外因が誘発の原因となり、風邪に関係があると考えられる。 |
1、 風邪侵入 風邪が体に侵入し、肛門周囲の皮膚に留まり、経絡気血を阻害し、皮膚の掻痒を引き起こす。風邪は単独ではなくしばしば湿邪や熱邪を連れて一緒に肛門周囲に侵入し、肛門周囲の炎症・熱感、痒みなどを起こす。 |
2、 飲食不摂生 油こいものや甘いもののとりすぎ、お酒の飲みすぎなどが原因で湿熱を生じ、あるいは脾胃を傷つけ、運化機能を乱し、湿邪を産生する。その湿熱が肝の経絡に沿って肛門皮膚に停滞し、掻痒や炎症をもたらす。 |
3、情志失調 情志の失調、気にしやすい、精神的ストレスなどが原因で肝の疏泄機能に影響し、肝気鬱結の病態をもたらし、長期間に火に変化し、血熱の病態になり、肛門周囲に影響して炎症や痒みを起こす。 |
4、虚弱体質 平素体質が弱い、あるいは年寄りや慢性疾患、あるいは過度疲労などは、気血の不足で、気血両虚の病態をもたらす。気虚の場合には衛気不固(抵抗力や免疫能の低下)の状態をもたらし、風邪は気が虚弱しているうちに侵入する。また血虚が皮膚を滋養できず、血虚で生風化燥をし、掻痒を引き起こす。 |
二、弁証論治 |
本病弁証は局部皮膚の状態や全身の症状を観察しながら、病状の虚実を判断する。実証には肛門掻痒が突然に起こり、消失も早い、発作を繰り返し、脈が弦などが見られる。虚証には肛門掻痒がなかなか治りにくい、肛門周囲皮膚の色が灰白を呈し、あるいは苔癬様の変化、裂を伴い、脈が細などが見られる。 |
1、風熱侵入 |
||||||||||
|
2、湿熱阻滞 | ||||||||||
|
3、血虚風燥 |
||||||||
|
4、血熱生風 | ||||||||
|
三、燻洗坐浴法 | ||||||
止痒燻洗湯
|
四、針灸治療 |
主なツボ 腎兪、長強、承山、太渓などである。毎日に1回、毎回に2〜3箇所を用いる。 配合ツボ 便秘、腹部膨満感を伴う場合には気海、脾兪を配合する。 煩燥、いらいら、不眠を伴う場合には神門、曲池を配合する。 |
五、再発の予防 |
1、 魚やかになどの海産品、あるいは刺激物を禁忌する。 2、 ストレスの解消。 3、 局部の刺激、石鹸での過度な洗浄を避ける。 4、 心のバランスをとる。 |
六、ポイント症候によるエキス剤の使い方 |
臨 床 症 状 | 漢方エキス剤 |
★肛門掻痒に、暑くなると激しくなる、しばしば肛門周囲の灼熱感、口苦、煩燥、便秘などを伴う場合。 | (22)消風散 |
★肛門掻痒に、滲出、潮湿、陰部へ蔓延する、局部皮膚に糜爛、出血、分泌物などが見られる場合。 | (76)竜胆瀉肝湯 |
★肛門掻痒に、皮膚が乾燥し、カサカサし、つやがない、皮膚の皹裂や落黐を伴う場合。 | (86)当帰飲子 |
★肛門掻痒に、皮膚の熱感、苔癬化あるいは少量赤い湿疹、体や手足の熱感、熱くなるとひどくなるなどを伴う場合。 | (57)温清飲 (71+15)四物湯合黄連解毒湯 |