第十二節 肛門湿疹
肛門湿疹は大腸肛門外来によく見られるアレルギー性皮膚疾患である。湿疹が肛門、肛門周囲皮膚に限局するがしばしば会陰部や外生殖器にいたる。臨床上では、湿疹、掻痒、局部の分泌物などが主要な特徴である。慢性になると、肛門や肛門周囲の皮膚が厚くなり、苔癬化や皹裂などの症状が見られる。 中医学では肛門湿疹は“浸淫瘡”、“風湿瘡”、“頑湿”の範疇に属する。中医学の治療は湿疹の局部症状を治療すると共に、患者体質の改善、抵抗力の増強、体のバランスや自律神経の調節などの効果が認められる。 |
一、病因病機 |
本病の病因は内因と外因に分けて考えられる。内因は脾胃の機能失調で湿濁が体内に停滞し、更に熱を転化し、皮膚の症状を引き起こすことである。外因は長期間に高湿度のところに滞在する、あるいは風湿邪が体に侵入し、体内の湿熱と一緒に皮膚に流れ、皮膚の症状をもたらすことが考えられる。 |
1、湿熱侵淫 飲食の不摂生、油こいものや甘いもののとりすぎ、お酒の飲みすぎなどが原因で体内に湿熱を生じ、あるいは外部の風湿熱邪が肛門部の皮膚に侵入し、湿疹、糜爛、痒みなどの症状をもたらす。 |
2、脾虚湿蘊 脾胃の虚弱でその運化(消化・吸収・運送・排泄)機能が乱れ、湿濁が体内に停滞し、肛門周囲の皮膚に影響して湿疹、黌痒などを引き起こす。 |
3、血虚風燥 貧血、あるいは病気が長引くと陰血を消耗する、あるいは年寄り、あるいは過度疲労などは、しばしば血虚の病態をもたらす。血虚で皮膚を滋養できず、風・燥を生じ、皮膚の乾燥・苔癬化・落屑・痒みなどを引き起こす。 |
二、弁証論治 |
本病弁証は虚実を弁別し、正邪の盛衰を判断する。実証は湿熱を主証として肛門湿疹、炎症、痒みなどの症候が目立ち、舌苔が膩、脈が弦滑などである。虚証は血虚風燥証が多く、舌質が淡、舌苔が少ない、脈が細数などである。熱証は急に発病し、湿疹が赤く、糜爛、滲出、痛み、舌質が紅、舌苔が黄色、脈が数などである。寒証は湿疹の色が灰暗、水のような滲出液、治りにくい、舌質が淡、舌苔が湿潤などである。 |
1、湿熱下注(湿疹の急性期) |
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2、血虚風燥(湿疹の慢性化) | ||||||||
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3、脾虚湿盛(湿疹の慢性化) | ||||||||
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4、熱毒壅盛(湿疹の急性化膿感染) | ||||||||
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三、局部治療 |
急性期 蒲公英30g、野菊花15gを煎じて、その薬液で毎日1〜2回に局部を洗い、または坐浴する。 慢性期 三黄膏あるいは紫雲膏を用いる。 |
四、針灸治療 |
主ツボ 曲池、大椎、肺兪、脾兪、長強、会陰などである。毎日に1回、毎回に2〜3箇所を用いる。 配合ツボ 三陰交、血海、合谷などを配合して用いる。 |
五、ポイント症候によるエキス剤の使い方 |
臨 床 症 状 | 漢方エキス剤 |
★急に発病し、肛門の皮膚が潮紅、湿疹、黄色い滲出物、局部皮膚に灼熱、糜爛、黌痒などが見られる場合。 | (76)竜胆瀉肝湯 |
★肛門周囲の皮膚に苔癬化、乾燥、カサカサ、裂などが見られる場合。 | (86)当帰飲子 |
★肛門周囲の皮膚は肥厚、苔癬化、少量な滲出液、痒みなどが見られる場合。 | (115) 胃苓湯 |
★肛門周囲の皮膚に、皮膚の熱感、苔癬化あるいは少量赤い湿疹、体や手足の熱感などを伴う場合。 | (57)温清飲 |
★肛門周囲の皮膚に赤、腫、熱、痛があり、化膿、糜爛、分泌物が多い場合。 | (15+3) 黄連解毒湯合乙字湯 |
★肛門の皮膚が湿疹、黄色い滲出物、糜爛などが見られ、黌痒がひどい場合。 | (22)消風散 |