ごあいさつ
第1章 総論
第2章 中医治療の実際
第3章 予防保健療法
第4章 常用の漢方エキス剤
ログイン
検索
|
第三節、裂肛
裂肛は主として若年成人に見られるが、ときには幼児、子供にも見られる。肛門管移行部の単なる裂けとして始まる縦走性の潰瘍であり、辺縁が下堀様となり底部が深くなり、内括約筋の輪状線維が露出してくるものも見られる。臨床所見は疼痛、出血、便秘、掻痒などがよく見られる。中医学では湿熱、血熱、気滞、瘀血などが原因で肛門局部の気血運行障害をもたらし、裂肛を形成すると考えられる。 |
一、病因病機 |
西洋医学では裂肛の原因は不明であるが、中医学では裂肛は肛門局部の病変だけではなく、全身臓腑機能、気血の運行、陰陽バランスの状態に関わっていると考えられる。 |
1、 血熱腸燥
風・火・燥・熱などの邪気が体に侵入し、その燥熱が胃腸に停滞すると津液を傷つけ便秘をもたらし、排便困難や便塊によって肛門を損傷し、裂肛を引き起こす。
|
2、 湿熱蘊結
湿熱の侵入、あるいはお酒や油濃いものの取りすぎが原因で湿熱を生じたことによってその湿熱が胃腸に凝集し、肛門に下降すると肛門粘膜の裂や潰瘍を引き起こす。
|
3、 血虚腸燥
老人、産後、貧血などで、血虚で津液が減少し、大腸を滋養することができず便秘をもたらし、裂肛を起こしやすくなる。 |
4、 気滞血瘀
感情の過激、性情の失調、精神的ストレスなどが肝の疏泄機能を乱し、肝気鬱結の病態を起こす。肝気が鬱結すれば、脾胃に影響し脾胃の機能失調をもたらし、気滞血瘀の病態を起こし、便も停滞し、便秘となり、肛門を傷つけ裂肛を形成する。 |
二、弁証論治 |
裂肛の弁証はまず虚実を弁別し、燥熱、湿熱、気滞血瘀が原因なのか、血虚が原因なのかを区別する必要がある。燥熱には便秘、排便時に肛門の痛みが激しい、顔色の紅潮、汗がよく出る、煩燥感などの症状が見られる。湿熱には肛門の灼熱感や熱痛が見られる。気滞血瘀には排便後の刺痛や脹痛がある。血虚には便秘、顔色の蒼白、皮膚のつやがない等を伴う。 |
1、血熱腸燥型
|
症候 |
大便秘結、排便時に肛門の痛みが激しい、顔色の紅潮、汗がよく出る、しばしば煩燥感、怒り易い、腹部膨満感、小便短赤、口や咽喉の乾燥感等を伴う。舌質が紅、舌苔が黄燥、脈は弦数。
【治法】涼血潤燥、止血止痛 |
方剤 |
涼血地黄湯「外科大成」加減
生地黄5g 当帰5g 地楡5g 槐角5g 黄連6g 天花粉5g 甘草3g 升麻3g 赤芍薬3g
枳穀3g 黄芩5g
荊芥5g 側柏炭5g |
加減 |
便秘がひどい場合には芒硝4g、大黄2gを加える。
便血が多い場合には荊芥炭を用いる。 |
漢方エキス剤 |
(57)温清飲を用いる。便秘の場合には(57+84)温清飲合大黄甘草湯を投与する。 |
|
2、湿熱蘊結型 |
症候 |
便秘、肛門の灼熱感・排便痛、粘液排出、しばしば口が苦い、体の沈重感等を伴う。舌質が紅、舌苔が黄膩、脈は濡数。 |
治法 |
清熱利湿 通便止痛 |
方剤 |
内疏黄連湯「外科正宗」加減
黄連3g 黄芩5g 連翹9g 山梔子5g 桔梗3g 木香3g 檳榔5g 烏薬5g 薄荷2g 当帰6g
大黄2g 甘草3g |
加減 |
粘液排出が多い場合には蒼朮5g、茯苓5gを加える。
出血がある場合には側柏炭5g、荊芥炭5gを加える。 |
漢方エキス剤 |
漢方エキス剤には適当な処方がないがそのかわりに(15)黄連解毒湯あるいは(3+15)乙字湯合黄連解毒湯を用いる。便秘の場合には(84)大黄甘草湯を合方する。 |
|
3、気滞血瘀型 |
症候 |
肛門縁に裂があり、肛門の刺通あるいは脹痛、排便後に痛みが激しい、肛門の緊縮感など。舌質が紫暗、脈は弦あるいは渋。 |
治法 |
活血化瘀、行気止痛 |
方剤 |
活血散瘀湯「外科正宗」加減
当帰5g 赤芍薬5g 桃仁5g 大黄3g 川芎4g 蘇木4g 牡丹皮5g 枳穀5g 栝楼仁4g 檳榔4g |
加減 |
痛みが激しい場合には延胡索5g、白芍薬6g、甘草3gを加える。 |
漢方エキス剤 |
(61+71)桃核承気湯合四物湯あるいは(3+25)乙字湯合桂枝茯苓丸を用いる。痛みが激しい場合には(68)芍薬甘草湯を合方する。 |
|
4、血虚腸燥型 |
症候 |
便秘、排便時の疼痛や出血。しばしば貧血あるいは貧血傾向、顔色の蒼白、皮膚につやがない、疲れやすいなどを伴う。舌質が淡、舌苔が少ない、脈は沈細弱。 |
治法 |
補血養陰、潤腸通便 |
方剤 |
潤腸丸「沈氏尊生書」加減
生地黄8g 当帰10gg 火麻仁12g 桃仁6g 枳穀8g |
加減 |
口や咽喉部の乾燥感を伴う場合には玄参6g、麦門冬6gを加える。
貧血を伴う場合には何首烏10g、赤芍5gを加える。
排便後に痛みが激しい場合には芍薬6g、甘草4gを加える。
排便後に出血がある場合には黄耆9g、阿膠4g、藕節炭5gを加える。 |
漢方エキス剤 |
(51)潤腸湯を用いる。便秘がひどい場合には(126)麻子仁丸を用いる。 |
|
1、定時の排便
朝や朝ご飯後に排便する習慣をつける。 |
2、飲食の調整
野菜や果物や水などを充分に取り、線維が多い食物を食べる。 |
3、燻洗坐浴法
この方法は薬液を用いて患部を燻す・洗うことによって活血化瘀、消腫止痛の効果が得られる。
消腫止痛方
以上の生薬に水を入れ煎じて、1000mlぐらい薬液になってから薬液を容器に移し、患部を洗うあるいは坐浴する。
|
(1)消腫止痛方
処方 |
瓦松30g 朴硝30g 馬歯莧30g 五倍子15g 川椒15g 防風15g 枳穀15g 側柏葉30g 葱白10g。 |
効能 |
活血化瘀、消腫止痛 |
適応症 |
裂肛、内痔、外痔の炎症、血栓性外痔、脱肛など。 |
使い方 |
以上の生薬に水を入れ煎じて、出来たら薬液を容器に移し、患部を洗うあるいは坐浴する。 |
|
4、外敷法
各種の裂肛に適応する。例えば、紫雲膏、四黄膏、三黄膏、九華膏などがある。 |
5、 針灸治療
裂肛に疼痛を伴う者に適応する。ツボを刺激することにより経絡を疏通し、気血の運行を調節し、止痛止血や潰瘍の癒合を促進する。常用ツボは長強、白環兪、承山、八髎などである。 |
四、手術治療法 |
治療法については種々の考え方があるが、激痛を伴う場合、すぐ手術を行うことに異論はないようである。手術の方法には内括約筋側方切開術、内括約筋後方切開術、用手的肛門管拡張術などである。 |
臨床のポイント症状 |
漢方エキス剤 |
★裂肛、便秘あるいは便秘傾向、肛門部の疼痛などがある場合。 |
(3)乙字湯 |
★裂肛、出血が少量で肛門周囲の熱感や掻痒感などが見られる場合。 |
(57)温清飲 |
★老人、産後、貧血などに裂肛、便秘を伴う場合。 |
(51)潤腸湯 |
★体力中度あるいは低下した人で裂肛、便が硬く、塊状を呈する場合。 |
(126)麻子仁丸 |
★裂肛、出血、肛門の灼熱感などを伴う場合。 |
(3+15)乙字湯合黄連解毒湯 |
★裂肛がなかなか治りにくい、しばしば疲労倦怠感、疲れやすい、食欲不振、手足の冷え、顔色が悪いなどを伴う場合。 |
(48)十全大補湯 |
★裂肛、肛門の緊縮感、排便後に痛みが激しい場合。 |
(68)芍薬甘草湯 |
|