十七節 放射線腸炎

十七節 放射線腸炎

放射線腸炎は放射線治療で照射線量が40Gy以上になると腸管に障害をきたし、腸粘膜の炎症・腸壁の繊維化・壊死などの病理的な変化を引き起こすことである。照射後2−3日で急性炎症をきたすが、これは1−2週間で消失する。一部の病例では炎症が慢性化し、治療しにくくなることはよく見られる。
中医学では放射線腸炎は“泄瀉”、“腸癖”などの範疇に属する。臨床では放射線治療の後に、排便異常、血便、腹痛のほかに貧血、全身疲労倦怠感、疲れやすい、微熱、痩せなどの症状を伴うことが見られる。

一、病因病機

放射線照射が原因で体の正気虚弱・気血両虚・臓腑機能失調の病態をもたらし、特に脾胃の機能を乱し、いろいろな症状が現れる。また外部の邪気が体の虚弱しているうちに侵入し、症状が複雑になる。

1、湿熱下注
放射線照射が原因で脾胃を傷つけ、湿熱を生じ、大腸に下降することによって気血凝滞の病態をもたらし、下痢、血便、腹痛などを引き起こす。

2、寒湿内停
湿邪が大腸に停滞すると腸の機能を乱し、下痢を起こし、また寒湿が腸の気血運行を阻害し、腹痛、下痢、腹部の冷え、食欲不振などをもたらす。

3、脾胃虚弱
脾胃が虚弱すると中気不足の病態になり、血液を固摂することができず血便をもたらし、また、脾胃虚弱で消化吸収が悪くなり、気血不足の病態を起こし、顔色が悪い、疲労倦怠感、疲れやすいなどの症状を引き起こす。

4、気血両虚
長期間の血便が原因で血虚を起こし、血虚があれば気虚にもなる。また脾胃虚弱で消化吸収が悪くなり、気血不足の病態を起こすこともある。

二、弁証論治


弁証はまず寒・熱・虚・実を弁別する。早期には血便の量が多く、色が鮮紅で、舌苔が黄膩で、脈が弦滑であるのは実熱証である。慢性になると、顔色が悪い、疲労倦怠感、疲れやすい、四肢の冷えなどの症状は見られ、虚寒証である。

1、湿熱下注型

症候 大便の回数が多く、血便、色が暗紅、あるいは粘液便、肛門の灼熱感、小便短赤。舌質が紅、舌苔が黄膩、脈は滑数。
治法 清熱利湿、調気行血
方剤 葛根・連湯「傷寒論」加減
黄連5g 黄?5g 葛根6g 金銀花10g 茯苓10g 木通4g 車前子5g 白芍10g  赤芍10g 当帰10g 甘草4g 白花蛇舌草20g 
加減 血便が多い場合には地楡5g 茜草根5gを加える。
漢方エキス剤 漢方エキス剤には適当な処方がないがそのかわりに(15+1)黄連解毒湯合葛根湯を用いる。

2、寒湿内停型
症候 下痢、水様便あるいは粘液便、腹痛・腹鳴、しばしば悪心、嘔吐、食欲不振、体の重たい、眠たい等を伴う。舌質が淡、舌苔が白膩、脈は濡緩。
治法 温化寒湿、健脾行気
方剤 胃苓湯「丹渓心法」加減
蒼朮9g 白朮9g 厚朴5g 桂枝4g 茯苓9g 陳皮4g 赤芍6g 当帰9g 梹榔子3g 炮姜5g 白花蛇舌草15g
加減 悪心、嘔吐を伴う場合には半夏5g、木香3gを加える。
お腹の冷えや痛みを伴う場合には白芍6g、香附子4gを加える。
漢方エキス剤 (115)胃苓湯を用いる。お腹の冷えや痛みを伴う場合には附子理中湯を投与する。

3、 脾胃虚弱型
症候 消化不良の便、下痢あるいは軟便、便の回数が多い、しばしば食欲不振、味がない、顔色が悪い、疲れやすい、腹部の痞え感などを伴う。舌質が淡、舌苔が白、脈は細弱。
治法 健脾益気
方剤 参苓白朮散「和剤局方」加減 人参6g 茯苓9g 白朮9g 桔梗4g 山薬6g 白扁豆5g 蓮子肉5g 砂仁3g 
よく苡仁9g 木香3g 甘草3g 白花蛇舌草12g
加減 寒がり、四肢の冷えなどを伴う場合には炮姜5g、艾葉3gを加える。 
漢方エキス剤 漢方エキス剤には適当な処方がないがそのかわりに(128)啓脾湯を用いる。寒がり、四肢の冷えなどを伴う場合には(32)人参湯あるいは附子理中湯を投与する。

4、 気血両虚型
症候 排便がすっきりしない、あるいは排便の力がない、腹痛、下痢、しばしば顔色が悪い、疲労倦怠感、疲れやすいなどを伴う。舌質が淡、脈は虚細。
治法 補血益気
方剤 八珍湯「正体類要」加減
人参5g 白朮5g 茯苓6g 甘草3g 当帰6g 芍薬5g 川きゅう4g 黄耆5g よく苡仁5g 山薬5g 生姜5g 白花蛇舌草10g
加減 血便を伴う場合には白及5g、艾葉3gを加える。
漢方エキス剤 (71+75)四物湯合四君子湯を用いる。

三、非手術治療法


(一)保留浣腸
方剤 三黄湯「銀海精微」加減
黄連10g 黄ごん15g 大黄10g 
加減 血便を伴う場合には白及10g、地楡10g、石榴皮10gを加える。
熱毒積盛(炎症がひどい)の場合には金銀花15g、蒲公英10gを加える。 
方法 上記した生薬を600ml水に入れて150〜200mlまで煎じ、50〜60ml薬液を用いて保留浣腸する。
一日に1回に行なう。 

(二)一般治療
急性期に横になってよく休むことが大切である。また飲食を調節し、消化吸収しやすいものを取り、繊維質のものを制限し、排便後に温水でよく洗って、肛門局部の熱敷などを行うことを勧める。

四、手術療法


手術治療は肛門狭窄、直腸壊死、頑固性直腸炎、腸穿孔、腸梗塞などに適応する。

五、漢方エキス剤の使い方


臨床のポイント症状 漢方エキス剤
★大便の回数が多く、血便、色が暗紅、あるいは粘液便、肛門の灼熱感、小便短赤などを伴う場合。 (15)黄連解毒湯
(15+1)黄連解毒湯合葛根湯
★下痢、水様便あるいは粘液便、腹痛・腹鳴、しばしば悪心、嘔吐、食欲不振、体の重たい、眠たい等を伴う場合。 (115)胃苓湯
★消化不良の便、下痢あるいは軟便、便の回数が多い、しばしば食欲不振、味がない、顔色が悪い、疲れやすい、腹部の痞え感などを伴う場合。 (128)啓脾湯
★食欲不振、腹痛、腹部の冷え、疲れやすい、軟便あるいは下痢などを伴う場合。 (32)人参湯附子理中湯
★排便がすっきりしない、あるいは排便の力がない、腹痛、軟便、しばしば顔色が悪い、疲労倦怠感、疲れやすいなどを伴う場合。 (71+75)四物湯合四君子湯




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