第一節 内痔

第一節、内痔

内痔は人類のもっとも古い疾患の一つであり、中医学では何千年以来、痔の治療や予防に対して多くの治療経験と優れた治療方法が集まった。現代医学では痔は生理素因・便秘・遺伝・飲食・過度疲労などが原因で肛門管がより肛門側に下降することや静脈瘀血などによって引き起こされるが、中医学では飲食の不摂生、生活習慣の乱れ、長期間の下痢や便秘、精神的ストレス、産後などが原因で体内に風・燥・湿・熱を生じ気血不調・経絡阻滞の病態をもたらし、瘀血濁気が肛門に下注し停滞するため痔を形成すると考えられる。

一.病因病機


痔は、臓腑の本虚、気血の虚損、陰陽の失調などに湿・熱・風・燥などの外邪侵入、生活習慣の乱れ、重労働、長期間の座り、出産、便秘などが加わり、気血失調、経絡阻滞、瘀血、湿熱下注など病態をもたらし、痔を形成すると考えられる。直腸や肛門などの局部の瘀血・湿熱が痔の形成の病理的基礎であり、臓腑の虚損、気血の運行障害、陰陽バランスの失調などが局部の瘀血・湿熱を引き起こす基本的原因である。

1.外邪の侵入
湿・熱・風・燥などの邪気が人体に侵入し、経絡に沿って下降し、肛門周囲に停滞して局部の気血運行を邪魔して痔を形成する。

2.湿熱下注
飲食の不摂生、飲酒過度、辛いものの取りすぎなどは脾胃を傷付け、脾胃の運化機能を失調させ、湿熱を生じる。その湿熱は経絡に沿って下降し肛門周囲に停滞して痔を形成する。

3.気滞血瘀
出出産、重労働、長期間の座位、便秘などは経絡や気血の阻滞をもたらし、局部瘀血の病態を形成し、痔となる。

4.脾胃虚弱
加齢、虚弱体質、慢性疾患などは脾胃虚弱を起こし、中気不足で昇挙が無力になり気虚下陥の病態をもたらし、脱肛や痔を引き起こす。

二、弁証論治


内痔はほとんどの肛門症状をきたすが、中でも最も多いのは出血、脱肛、肛門掻痒である。内痔の弁証に関しては、虚・実を重視している。一般的に出血が鮮紅で、性質が粘稠で、病程が短く、脱肛が自然と環納するものは実証であり、出血が淡で、性質が稀薄で、病程が長く、脱肛が自然と環納することができないものは虚証である。時に虚実兼証が見られることもある。

1.風傷腸絡型
症候 血便、点滴出血あるいは噴射状出血、血色が鮮紅で、あるいは肛門掻痒など。舌質が紅、舌苔が薄白あるいは薄黄、脈は浮数。
治法 清熱涼血袪風
方剤 涼血地黄湯「外科大成」
生地黄6g 当帰4.5g 地楡6g(炒黒) 槐角9g(炒黒) 黄連6g 天花粉2.4g 
甘草1.5g 升麻1.5g 赤芍薬3g 枳穀3g 黄芩5g(炒黒) 荊芥3g(炒黒) 
漢方エキス剤 漢方エキス剤には適当な処方がないがそのかわりに(15)黄連解毒湯あるいは(57)温清飲を用いる。

2.湿熱下注型
症候 血便、血色が鮮紅で量が多い、脱肛があるが自然と環納する、肛門の灼熱感。舌質が紅、舌苔が黄膩、脈は滑数。
治法 清熱除湿 活血化瘀
方剤 五神湯「弁証録」
茯苓5g 金銀花10g 牛膝5g 車前子5g 地丁8g 黄芩5g 当帰5g 赤芍薬5g 甘草5g  
漢方エキス剤 漢方エキス剤には適当な処方がないがそのかわりに(76+15)竜胆瀉肝湯合黄連解毒湯を用いる。

3.気滞血瘀型
症候 脱肛、肛門の不快感、会陰部・肛門部の腫脹感や痛み、しばしば肛門部を過度に緊張させることがある、血栓、水腫など。舌質が暗紅、舌苔が白あるいは黄、脈は弦細渋。
治法 行気 活血、化瘀
方剤 活血散瘀湯「外科正宗」
当帰6g 赤芍薬6g 桃仁5g 大黄3g 川芎5g 牡丹皮5g 枳穀4g 栝楼仁5g 檳榔5g 
漢方エキス剤 漢方エキス剤には適当な処方がないがそのかわりに(3+25)乙字湯合桂枝茯苓丸を用いる。

4.脾虚気陥型
症候 脱肛門の墜脹感(上から下へ墜落するような感じ)、脱肛があり用手的に環納が必要なもの、さらに脱肛したままの状態のものもある。しばしば貧血、疲労倦怠感、疲れやすい、食欲不振、軟便あるいは下痢などを伴う。舌質が淡で肥大、舌苔が薄白、脈は沈細あるいは沈弱。
治法 益気養血、固摂脾胃
方剤 補中益気湯「弁惑論」
黄耆15g 人参6g 当帰6g 陳皮4g 升麻3g 柴胡3g 白朮5g 甘草3g
漢方エキス剤 補中益気湯を用いる。

三、栓剤療法


栓剤療法は塞薬法ともいえる。この療法は漢方薬を含む栓剤を肛門内に入れ粘膜から吸収されることによって清熱解毒、止痛、止血、創の治癒を促進するなどの効能を発揮する治療法である。常用される栓剤は消炎止血栓、復方痔瘡栓、洗必泰痔瘡栓、などである。

1、消炎止血栓
処方 地楡炭粉20g 黄柏粉10g 五倍子粉10g 仙鶴草粉10g 氷片1.7g キシロカイン0.7g 
栓剤基質100g
使い方 以上のものを充分に混ぜてから70枚の栓剤を作り、一日に2〜3回で、一回に一枚を肛門に入れる。

2、復方痔瘡栓
処方 地楡炭粉20g 黄柏粉10g 仙鶴草粉10g 氷片0.7g キシロカイン0.7g 栓剤基質100g
使い方 以上のものを充分に混ぜてから70枚の栓剤を作り、毎晩寝る前に1〜2枚を肛門に入れる。

四、針灸療法


針灸療法は歴史が長く、痔の痛みや脱肛に対して優れた効果がある。
適応症 内痔の出血、脱肛、腫脹や疼痛など。
処方 攢竹、齦交、白環兪、長強、承山、燕口

五、漢方エキス剤の使い方

   
臨床のポイント症状 漢方エキス剤
★痔、便秘あるいは便秘傾向、肛門または陰部の疼痛や掻痒などがある場合。
(3)乙字湯
★以上の症状が見られ、肛門の腫れや痛みが激しい場合。 (3+25)乙字湯合桂枝茯苓丸
★体力の充実した人で、痔に便秘、痛み、手足の冷えを伴う場合。 (61)桃核承気湯
★痔に血便、点滴出血あるいは噴射状出血、血色が鮮紅で、あるいは肛門掻痒などを伴う場合。 (15)黄連解毒湯
★痔に血便、血色が鮮紅で量が多い、肛門の灼熱感などを伴う場合。 (15+76)黄連解毒湯合竜胆瀉肝湯
★痔、肛門の墜脹感、脱肛があり用手的に環納が必要なもの、しばしば疲労倦怠感、疲れやすい、食欲不振、軟便あるいは下痢などを伴う場合。 (41)補中益気湯
★出血が少量で肛門周囲の掻痒感などが見られる場合。 (57)温清飲




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