第五節 痔瘻

第五節 痔瘻

痔瘻は直腸、肛門管腔と周囲皮膚が通じる瘻管であり、肛門周囲膿瘍と、同一疾患が異なった病像をみせたものにすぎない。このうち10%は、他の疾患の随伴病変として見られる。本病は臨床でよく見られる疾患であり、肛門直腸疾患の10~20%を示し、男性が女性より多い。痔瘻は一般的に一つの内口、一つまたはそれ以上の外口、原発巣、原発巣より分枝した複数の二次瘻管より形成されている。

一、病因病機


痔瘻は、肛門周囲膿瘍が自潰または外科的切開により形成されたものである。中医学では熱毒が肛門周囲に停滞し局部の気血運行を阻害し、創面の融合が悪くなり、長引くと痔瘻を形成すると考えられる。慢性になると、気血または陰陽のバランスに影響し、気血虚弱や陰陽失調を引き起こす。

1、湿熱下注
油濃いもの・刺激物(辛いもの)・お酒などの取りすぎが原因で体内に湿熱を生じ、または風・湿・熱・燥の邪気の侵入、その湿熱が大腸、肛門に注入し、局部の熱盛・化膿・破潰により痔瘻を形成する。

2、正虚邪恋
お酒の取りすぎ、あるいは疲労・憂愁などが原因で脾胃を損傷し、脾胃の運化機能を乱し、気血不足をもたらす。また老年の体質虚弱や慢性疾患などにより気血不足の病態を起こす。気血不足のため、邪気が体内に停留し、痔瘻がなかなか治りにくい。


3、陰液虚損
平素、陰虚の体質、あるいは外邪の侵入で鬱久化熱により陰液を消耗し、陰虚の状態をもたらす。陰虚が原因で局部を滋養することができず、痔瘻が慢性化となる。

二、弁証論治


本病は虚実挟雑であり、本虚標実の証がよく見られる。早期に膿瘍の局部症状が主として見られ、標実証が見られ、寒熱の偏盛を弁別し、晩期には正気虚の症状が主として気血や陰陽の虚損を把握しなければならない。

1、湿熱下注型

症候 肛門周囲の瘻管から持続的あるいは間欠的な排膿、膿の質が粘稠で、肛門の脹痛、局部の熱感、舌質が紅、舌苔が黄、脈は弦または滑数。
治法 清熱利湿、活血止痛
方剤 金銀花10g 黄柏5g 牡丹皮5g 赤芍5g 茯苓5g 薏苡仁10g 蒼朮5g 当帰5g 枳穀3g 通草3g 甘草3g  
当帰5g 枳穀3g 通草3g 甘草3g
加減 痛みが激しい場合には延胡索5g、防風5gを加える。
便秘がある場合には大黄、火麻仁5gを加える。
漢方エキス剤 漢方エキス剤には適当な処方がないがそのかわりに(15+33)黄連解毒湯合大黄牡丹皮湯を用いる。

2、正虚邪恋型
症候 肛門周囲の瘻管から持続的あるいは間欠的な排膿、膿の質が稀薄で、肛門の隠痛、しばしば疲労倦怠感、疲れやすいなどの症状を伴う。舌質が淡、舌苔が薄、脈は濡。。
治法 扶正袪邪
方剤 托裏消毒散「外科正宗」加減
党参10g 黄耆10g 当帰10g 白朮10g 茯苓10g 桔梗6g 金銀花15g 白?6g 
穿山甲6g 皀角刺3g
加減 痔瘻を治癒してから八珍湯あるいは十全大補湯を投与し、気血を補う。
漢方エキス剤 漢方エキス剤には適当な処方がないがそのかわりに(122+75)排膿散及湯合四君子湯を投与する。

3、陰液虚損型
症候 肛門周囲に痔瘻の潰口があり、色が淡紅で、膿液が薄い、しばしば潮熱、寝汗、煩悶、口や咽喉部の乾燥感等を伴う。舌質が紅、舌苔が少ない、脈は細数。
治法 清熱養陰
方剤 秦艽別甲湯「衛生宝鑑」加減
秦艽10g 別甲15g 銀柴胡6g  地骨皮6g 当帰10g 青蒿6g 知母6g 烏梅6g 
炙甘草6g 
加減 空咳などの肺陰虚症状を伴う者には麦門冬6g、沙参6gを加える。
漢方エキス剤 漢方エキス剤には適当な処方がないがそのかわりに(87+57)六味地黄丸合温清飲を用いる。肺陰虚の症状を伴う者には(29)麦門冬湯を投与する。

三、非手術治療法


1、 薬物治療
(1)煎じ薬、漢方エキス剤:症候によって弁証し、処方を選んで用いる。

(2)燻洗坐浴法
防風15g、黄芩15g、竜胆草15g、苦参15g、大黄30g、魚腥草30を煎じて、その薬液で局部を洗い、または坐浴する。

(3)軟膏
急性炎症期に清熱解毒・消炎止痛の軟膏を選んで治療する。代表的軟膏は三黄膏、黄連膏、四黄膏などである。

四、手術治療法


痔瘻の手術治療原則は、原発巣・2次瘻管・膿瘍を切開開放することであり、包帯交換をしやすいように創を形成することである。手術法の詳細については外科手術書を参考にされたい。

五、漢方エキス剤の使い方


臨床のポイント症状 漢方エキス剤
★瘻管から持続的あるいは間欠的な排膿、膿の質が粘稠で、肛門の脹痛、局部の熱感などの場合。 (15+33)黄連解毒湯合大黄牡丹皮湯
★瘻管から持続的あるいは間欠的な排膿、膿の質が稀薄で、肛門の隠痛、しばしば疲労倦怠感、疲れやすいなどの症状を伴う場合。 (122+75)排膿散及湯合四君子湯
★痔瘻の潰口があり、色が淡紅で、膿液が薄い、しばしば潮熱、寝汗、煩悶、口や咽喉部の乾燥感等を伴う場合。 (87+57)六味地黄丸合温清飲
★全身疲労倦怠感、疲れやすい、食欲不振、軟便あるいは下痢などを伴う場合。 (41)補中益気湯




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