第六節 直腸脱

第六節 直腸脱

直腸脱には、直腸全層が脱出する完全直腸脱と粘膜のみが脱出する部分的なものがあり、肛門大腸疾患の難病の中の一つである。発病は小児、老人、産婦および虚弱体質の若い成人によく見られる。臨床では直腸粘膜および直腸が繰り返し脱出し、排便時のみ脱出し、自然に環納するものや、手で環納しなければならないものもあり、50%の患者は便失禁を伴う。
中医学では直腸脱は“脱肛”、“脱肛痔”、“重畳痔”などの範疇に属する。

一、病因病機


中医学は先天不足、小児や老人の臓腑虚損、婦人の出産過多など、あるいは慢性下痢、飲酒などが脾胃気虚・気虚下陥の病態をもたらし、腎気不足が起こり、直腸を固摂することができず、直腸が脱出する。

1、 脾虚気陥
小児の発達不良や、老人の臓器虚弱、また、長期間の下痢や軟便などが原因で脾胃虚弱、中気下陥、固摂無力の病態を起こし、直腸が脱出する。

2、 湿熱下注
湿熱の侵入、あるいはお酒や油濃いものの取りすぎが原因で脾胃を傷つけ、湿熱を生じ、大腸に下降することによって便秘あるいは下痢を引き起こし、直腸が脱出する。


二、弁証論治


弁証はまず虚実を弁別する。臨床では虚証が多く、実証は少ない。虚証の特徴は排便あるいは咳の場合に直腸が脱出し、自然に環納ができず、しばしば疲労倦怠感、食欲不振、不眠、めまい、耳鳴り、痩せ等を伴うことである。実証は直腸が脱出すると同時に痛みを伴い、排尿不利、煩燥、口の苦いなどが見られる。

1、 脾虚気陥型

症候 肛門内から腫物が脱出し、色が淡紅で、しばしば肛門の脹痛あるいは不快感、血便、疲労倦怠感、食欲不振などを伴う。舌質が淡、舌苔が薄白、脈は虚あるいは弱。
治法 補気昇提、収斂固渋
方剤 補中益気湯「脾胃論」加減
黄耆15g 人参4g 白朮9g 升麻4g 柴胡6g 陳皮5g 当帰6g 炙甘草3g 
加減 食欲不振を伴う場合には鶏内金5g、神曲6g、麦芽5g、山薬5gを加える。
お腹の冷えや痛み、温かい物が好む脾胃虚寒の人には炮姜4g、茯苓5g、五味子4gを加える。
腹部膨満感などを伴う場合には香附子4g、木香3gを加える。 
漢方エキス剤 (41)補中益気湯を用いる。

2、 腎気不固型
症候 直腸が脱出し、なかなか環納できず、しばしば肛門の墜落感、腰や下肢の脱力感、顔色が悪い、夜間頻尿、慢性下痢などを伴う。舌質が淡、舌苔が白、脈は沈弱。
治法 補腎気、固摂収斂
方剤 腎気丸「外科正宗」加減
附子5g 桂皮2g 山薬15g 茯苓5g 山茱萸5g 炙黄耆10g 升麻5g 
加減 下痢が長い場合には補骨脂5g、肉豆寇6gを加える。
便秘を伴う場合には麻子仁5g、胡桃肉4gを加える。
直腸の脱出がなかなか環納できない場合には金桜子4g、烏梅3gを加える。 
漢方エキス剤 (7+41)八味地黄丸合補中益気湯を用いる。

3、気血両虚型
症候 直腸の脱出、しばしば顔色の蒼白あるいは萎黄、やる気がない、めまい、動悸、物忘れ、不眠等を伴う。舌質が淡白、脈は細弱。
治法 益気養血、温潤大腸
方剤 十全大補湯「和剤局方」加減
人参3g 黄耆20g 白朮10g 茯苓6g 当帰6g 熟地黄10g 白芍薬6g 升麻6g 
甘草4g
加減 便秘を伴う場合には麻子仁5g、柏子仁4gを加える。
不眠、精神不安を伴う場合には酸棗仁5g、遠志4gを加える。 
漢方エキス剤 (48)十全大補湯を用いる。便秘の場合には(51)潤腸湯を合方する。

4、湿熱下注型
症候 直腸の脱出、環納できず、しばしば肛門の腫痛、顔面紅潮、全身熱感、口の苦い、腹部膨満感、便秘、小便の短赤等を伴う。舌質が紅、舌苔が黄膩あるいは黄燥、脈は濡数。
治法 清熱瀉火、行気利湿
方剤 涼膈清腸散「証治準縄」加減
生地黄8g 黄?5g 黄連4g 香附子5g 川?5g 白?5g 当帰5g 荊芥5g 防風5g 
升麻3g
加減 肛門の腫れ、熱感、痛みなどを伴う場合には金銀花5g、黄柏4g、山梔子5gを加える。
便秘を伴う場合には草決明5g、大黄4gを加える。
排便後に痛みが激しい場合には芍薬6g、甘草4gを加える。
小便が黄色である場合には滑石9g、車前草5gを加える。
漢方エキス剤 漢方エキス剤には適当な処方がないがそのかわりに(3+15)乙字湯合黄連解毒湯を用いる。

三、局部治療法


1、燻洗坐浴法
(1)苦参湯
処方 苦参20g 石榴皮30g 明礬15g 五倍子15g 
適応症 直腸脱、環納できないもの。
使い方 以上の生薬に水を入れ煎じて、1500mlぐらい薬液になってから薬液を容器に移し、患部を洗うあるいは坐浴する。毎日に二回で一回に20分ぐらいする。

(2)補気提升方
処方 黄耆15g 五倍子30g 升麻9g
適応症 気虚脱肛、直腸脱。
使い方 以上の生薬に水を入れ煎じて、1500mlぐらい薬液になってから薬液を容器に移し、患部を洗うあるいは坐浴する。毎日に二回で一回に20分ぐらいする。

(3)石榴皮湯
処方 石榴皮30g 明礬15g 
適応症 脱肛、直腸脱。
使い方 以上の生薬に水を入れ煎じて、出来たら薬液を容器に移し、患部を洗うあるいは坐浴する。

四、針灸療法


1、 体針
長強、百会、合谷、足三里、陰陵泉、三陰交、承山。

2、 耳針
直腸、神門、皮質下。

3、 灸
百会。

五、漢方エキス剤の使い方


臨床のポイント症状 漢方エキス剤
★脱肛、肛門の脹痛あるいは不快感、血便、しばしば疲労倦怠感、食欲不振などを伴う場合。 (41)補中益気湯
★脱肛、環納できず、しばしば肛門の墜落感、腰や下肢の脱力感、顔色が悪い、夜間頻尿などを伴う場合。 (7)八味地黄丸
★直腸の脱出、環納できず、しばしば肛門の腫痛、顔面紅潮、全身熱感、口の苦い、腹部膨満感、便秘、小便の短赤等を伴う場合。 (3+15)乙字湯合黄連解毒湯
★体力中度あるいは低下した人に脱肛、便が硬く、塊状を呈する場合。 (126)麻子仁丸
★脱肛、しばしば疲労倦怠感、疲れやすい、食欲不振、手足の冷え、顔色が悪いなどを伴う場合。 (48)十全大補湯




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