中医学では、中医大腸肛門疾患の病因は六淫(風・寒・暑・湿・燥・火)、七情(喜・怒・憂・思・悲・恐・驚)、飲食不摂生、虚弱体質、瘀血などであり、それらは原因で人体の臓腑・陰陽バランスの乱れや気血失調などをもたらし、大腸肛門疾患を引き起こすことが考えられる。

一、六淫の侵入

六淫(風・寒・暑・湿・燥・火)は体に侵入すると気血運行を乱し、大腸肛門疾患の病因となる。

(1)風邪侵入

風は春によく見られ、陰液を傷つきやすく、陽邪として考えられる。風邪は肺に侵入すると肺の機能を乱れ、咳、呼吸困難、喘息など症状を引き起こす。肺は大腸と表裏の関係があるので肺の宣降機能失調が原因で大腸に影響し、痔・脱肛・排便異常などを起こる。風熱が腸に侵入すると腸風下血(血色が鮮紅であり、点滴の出血あるいは噴射状出血)の症候が現れる。風邪は中焦に入ると下痢を起こり、肛門周囲の皮膚に侵入すると皮膚の掻痒を引き起こす。

(2)寒邪凝滞

寒は冬によく見られ、陽気を傷つきやすく、陰邪として考えられる。寒邪は外寒と内寒に分けられる。冷たいものを食べ過ぎたり飲みすぎたりすると脾陽に影響し脾の運化機能を乱れ、腹部の冷痛・下痢・脱肛の症状が現れる。陽虚が原因で内寒を生じ慢性下痢や五更瀉(夜明けの下痢)が見られる。

(3)湿邪下注

湿は陰邪であり、重濁・粘滞の性質があるので陽気を傷つけ、気機を阻害しやすい。湿邪は大腸に下注すると大腸の気機が乱れ、下痢・腹痛・腹部膨満感・肛門の不快感などの症状を引き起こす。湿邪は粘滞の性質があり、気機を攪乱し気血運行を阻害して脈絡瘀阻・癥瘕(大腸ポリプ・悪性腫瘍)をもたらす。湿熱は肛門に下注すると化膿症を引き起こす。

(4)燥邪傷陰

燥は秋によく見られ、乾燥の性質があり、津液を傷つけやすい。肺熱が盛んで大腸に移ると腸燥便秘・肛門の破裂や疼痛・出血などが現れる。辛いものを過食すると腸燥熱結の病態になり、あるいは陰液が不足すると大腸乾燥をもたらし便秘や肛裂が起こる。

(5)熱(火)灼腸絡

火熱は陽邪であり、炎上の性質があり、津液を消耗し、出血させる(迫血妄行)。熱邪の侵入、あるいは風・寒・暑・湿・燥による化熱などが原因で津液を消耗するため便秘・気血運行障害をもたらし、痔を引き起こす。火熱が腸絡を傷つけ下血を起こる(迫血妄行)。火熱が肛門の局部に停滞すると紅・腫・熱・痛の症状をもたらす。

二、七情内傷

人の精神や感情の変化は疾病の発生・進展・好転にかなり影響すると考えられる。中医学では精神や感情の活動を七情(喜.怒、憂、思、悲、恐、驚)に分類する。七情の変化には様々な強さの段階があり、通常の場合でも外界の影響で刻々と変化するが、多くは正常範囲内にある。感情の変化は過激すると、例えば、情緒の過度興奮あるいは抑制などは、体の陰陽バランス失調、気血不和、経絡阻滞、臓腑の機能失調などをもたらし病気が起こる。
例えば、情緒の過度興奮あるいは抑制などは、体の陰陽バランス失調、気血不和、経絡阻滞、臓腑の機能失調などをもたらし病気が起こる。 例えば、喜びが過ぎると心を傷つけ、血行が悪くなり、気血瘀阻の病態になり痔などの疾患を引き起こす。過度の怒りは肝を傷つけ、肝気の疏泄機能を乱し、脾胃に影響し(肝気横逆犯脾)、湿熱を生じ、大腸に下注して病気を起こし、肝気鬱結が原因で化火し、陰血を消耗するため腸燥便秘が起こり、肝気鬱結が長引くことによって気滞血瘀の病態をもたらし、癥瘕(大腸ポリープ・悪性腫瘍など)を引き起こすこともある。過度の優・思は脾胃を傷つけ、脾の運化機能を乱し、食欲不振、腹部膨満感、軟便あるいは下痢などの症状をもたらし、長引くと痔や脱肛を起こす。悲しみは肺気を消耗し、肺が大腸と表裏の関係があるため、肺気が虚弱すると脱肛などをもたらす。恐れや驚きは腎を傷つけ、腎気不足や腎精不足などをもたらし、便秘・肛門痛・下痢などの症状を引き起こす。

三、飲食不摂生

飲食不摂生は飲食失調と偏食に分けられる。

(1)飲食失調

飲食失調:暴飲暴食は胃腸の消化吸収に影響し、上腹部がつかえて苦しい、腹部膨満感、腹痛、はきけ、嘔吐、軟便あるいは下痢などの症状を引き起こす。また暴飲暴食は脾胃の消化吸収機能を乱し、気血瘀阻の病態をもたらし、痔・瘻・大腸疾患を起こしやすい。飲食量が不足すると気血生化の源(栄養)がなくなり、気虚や気血両虚の状態になり、体の虚弱状態を起こし、下痢・脱肛・内臓下垂などを引き起こす。

(2)偏食

食べ物はいろいろな栄養成分があり、五臓六腑を滋養する。偏食は栄養を充分に取らず臓腑を滋養することができなくなり、また同じものだけを取る(偏食)と体内の陰陽バランスを失調させることがよく見られる。例えば、油っこいもの・甘いもの・お酒などを過量に摂すると、体内に湿熱や痰湿を発生させ、湿熱が大腸に移ると下痢・血便・痔・瘻・瘍などを起こす。辛いものを取りすぎると熱が胃腸に停滞し便秘・肛裂・痔・瘻などを起こしやすい。
夏になると気候が暑いので冷たいものをよく取り、冷たいものの過量摂取は脾胃の陽気を損傷し、しばしば腹痛、下痢を引き起こす。

四、労倦

過労はいろいろ疾患を起こす。長期間に重いものを持ち、あるいは立つ仕事や座る仕事が長くすると肛門や大腸の疾患を引き起こしやすい。また病後で体が完全に回復していない場合に仕事することにより気血を消耗し、痔や脱肛などの疾患を起こすこともある。

五、房労損傷

適当な房事は心身健康に対して有利であるが、過度な房事は腎精を消耗・損傷するため、熱や湿熱などは腎の虚弱しているうちに下注して血便・便秘・痔瘻などの病気をもたらす。飲酒後で房事すると精気が消耗され、酒毒が腎の虚弱しているうちに気血を失調させ病気を引き起こすことも多い。

六、虚弱体質

先天不足:生まれてから虚弱体質(先天不足)で下痢・消化不良便・脱肛などの疾患が発生する。痔疾患も家族性があり、遺伝素因に関係があると考えられる。
後天失調:各種の後天素因は体の気虚・血虚・気血両虚・陰虚・陽虚・陰陽両虚などの病態をもたらし、さらに大腸肛門疾患を引き起こす。特に気虚が原因で肛門・大腸疾患を起こすことはよく見られる。例えば、婦人産後や、小児の消化不良や慢性下痢などが原因で中気不足・気虚下陥の病態をもたらし、脱肛・痔などの疾患を引き起こすことが多い。また血虚の患者は便秘・肛門の疼痛・痔瘻などの疾患を起こすこともある。

七、瘀血阻滞

瘀血とは、鬱血、病理的産物(腫瘍、ポリープ、癌など)、微小循環障害、血液凝固線溶異常などにより現れる症候群であり、血液粘度、血漿粘度の亢進、赤血球の流動性の低下、赤血球変形能の低下、赤血球膜の脆弱化、血管内の赤血球凝縮、血流の局所的停止などが高頻度で観察される病態もいわれる。瘀血は気虚・気滞・血寒・血熱・外傷・内出血などが原因で形成されることが多い。大腸肛門疾患では瘀血証がよく見られ、気血運行不良や瘀血阻滞が主な原因であると考えられ、臨床では肛門の疼痛・局部の瘀血点や瘀血・血栓性外痔・大腸や直腸の癌・大腸ポリプなどが見られる。
以上をまとめてみると、大腸肛門疾患の発生は六淫の侵入、七情の過激、飲食不摂生、虚弱体質、瘀血阻滞などに関わっていると考えられる。大腸肛門疾患は病変部位が大腸・肛門にあるが、肺、脾、腎の機能状態に密接な関係があり、肺、脾、腎に病気があれば大腸肛門に影響を与え、局部の病変を引き起こすと考えられる。