弁証施治とは、中医学特徴のひとつであり、理・法・方・薬の臨床上での具体的な応用であり、即ち、四診(望診・聞診・問診・脈診)から得られた情報をまとめ、中医学の弁証理論によって証を診断し、証に従って治療方法を決め、薬を出して治療する全過程である。証は病気の客観的な反映であり、弁証施治の根拠となり、あるいは人体の臓腑と経絡の間および人体と周囲環境の間に相互的な関係が乱れた場合に現れた総合的な表現であるとも言える。弁証とは疾患を認識する過程であり、施治とは病気を治療する過程であると考えられる。

“証”と“症”は意味が異なり、“症”は患者の客観的あるいは自覚的な各種症状であり、“証”は病気の病因、部位、性質を帰納・概括するものである。また証は整体性があり、人体内部の整体性を強調するだけではなく、人体が環境・気候・社会などのいろいろな素因から影響をうけやすいことも強調している。例えば、肛門疾患は肛門局部の病気ではなく、肺、脾、腎の機能状態に密接な関係があり、肺、脾、腎に病気があれば、あるいは何らかの原因で臓腑間のバランスが崩れると肛門に影響を与えるし、また気候の変化や精神的ストレスなどが原因で肛門疾患に影響を与えることもあると考えられる。

弁証の方法はいろいろのものがあり、例えば、八網弁証、病因弁証、気血弁証、臓腑弁証、六経弁証、衛気営血弁証などが挙げられる。その中に八網弁証は中医学弁証の核心である。証を確定する最も基本的原則である。八網弁証の中では寒熱が疾患の性質を弁別し、虚実が正気と邪気の盛衰を判断し、表裏が病気の部位や病勢の深浅を鑑別し、陰陽が病気の場合に現れる興奮と抑制、亢進と衰退、過剰と不足などの矛盾現象のまとめる総括であると考えられる。

一、肛門大腸疾患の弁証

弁証は治療の前提であり、正しい弁証があれば治療上で優れた効果が得られる。肛門大腸疾患は局部の病変であり、局部の弁証が非常に重要であるが、局部の病変が全身病理的な変化の局部表現であるので整体弁証を無視することもできない。整体弁証と局部弁証を結合すれば病気の病因、病機、性質、部位、転帰を把握することができ、証を正しく判断することができる。ここで局部の弁証を紹介する。

(一)血便の弁証

血便は肛門大腸疾患によく見られる症状のひとつである。血便は遠血と近血に分けて考えられる。出血が先で後に排便し、血の色が鮮紅であるのは近血であり、肛門や直腸の出血によく見られる。便が先に排出し出血が後に出て、血の色が紫暗であるのは遠血であり、直腸より上部の出血に多い。血便の色が鮮紅で濃いのは実熱証に見られ、色が淡紅で稀薄であるのは虚寒証に見られる。血便が暗紅で粘液を伴わないのは虚証に多く、色が暗紅で粘液を伴うのは湿熱証に多い。

(ニ)疼痛の弁証

肛門痛があったりなかったりし、或いは痛みの程度が軽く連続してじくじくし、墜脹感を伴うのは虚証である。肛門痛が持続性で脹っているような痛み(脹痛)、刺すような痛み(刺痛)、ズキズキの痛み(跳痛)、焼けるような痛み(灼痛)などが見られるのは実証である。痛みが軽く連続してじくじくし、抑えると楽になるのは気虚証である。患部皮膚の色が白く、あるいは紫色で、暖かくさせて楽になるのは虚寒証である。肛門部に焼けるような痛みが湿熱下注証によく見られる。患部に脈拍の打つようなズキズキとする痛みは実熱証によく見られる。患部に刺すような痛みが気滞血瘀証に見られる。

(三)脱肛の弁証

脱肛にはいろいろな原因があり、脱肛の様子を観察すると弁証することができる。排便の時に脱肛し、自己の力で自然の戻らないのは中気不足証である。脱出物の色が赤く、触ると痛いのは湿熱証に見られる。脱出物が完納できず腫れて痛み、表面の色が紫暗で触ると硬いのは気滞血瘀証に見られる。

(四)腫脹の弁証

局部に腫れがひどく、熱感・赤い・痛みを伴うのは実証・熱証である。患部に腫れが軽く、皮膚の色が正常あるいは紫暗で痛みが軽いのは虚証・寒証である。腫れ物の色が紫暗で触って硬く感じるのは気滞血瘀証に見られる。

(五)痒みの弁証

肛門部に痒みがあり、肛門周囲の皮膚が赤くて腫れ、灼熱疼痛を伴い、分泌物が少ないのは熱毒壅盛証である。肛門に掻痒がひどく、皮膚の剥落・糜爛を伴い、分泌物が多いのは湿熱下注証である。皮膚の色が灰白で湿潤を伴うのは湿邪侵入証である。肛門周囲の皮膚が乾燥し、色が灰白であるのは血虚証である。

(六)化膿の弁証

化膿の弁証は化膿の有無・深浅・性質・臭い・色沢などを弁別しなければならない。

1、化膿の有無
患部を触って灼熱感があり、痛みがひどくて触るのが嫌い、脈が数脈で、腫れ物が軟らかいのは膿を形成したものである。患部を触って熱感があり、痛くて脈が速くない、腫れ物が硬いのは膿を形成していないものである。

2、膿の深浅
腫れ物が硬く、上部を触って軟らかく陥凹があり皮膚の色が赤くて灼熱感を伴うのは化膿が浅部にあることである。腫れ物が散漫で硬く、抑えると陥凹があり皮膚の色がやや紅で熱感が軽いのは化膿が深部にあることを示している。

3、膿の性質・臭い・色沢
膿の性質
膿液が濃いのは正気が充足していることを示し、膿液が稀薄であるのは正気が不足していることを示す。膿液が稀薄から粘稠へ変るのは正気が回復していることを示唆し、膿液が粘稠から稀薄へ変るのは正気が衰弱して行くことを示唆している。膿液が粘稠で黄色であるのは陽証であり、膿液が稀薄で白いのは陰証である。
膿の臭い
膿液の臭いがやや生臭いのは軽症であり治りやすく、膿液の臭いがひどくて悪臭があるのは重症であり治りにくいと考えられる。
膿の色沢
膿液の色が黄色あるいは白で新鮮であるのは気血が充足していることを示し、膿液の色が黄濁、晦暗であるのは邪気が盛んでいることを示し、膿液の色が緑黒であるのは化膿の時間が長いことを示唆している。

(七)潰瘍の弁証
潰瘍は裂肛と肛門部の膿瘍によく見られる。

1、裂肛
裂口が表浅で、色が鮮紅で、辺縁がきれいものは熱結腸燥証に見られる。潰瘍の裂口は菱形で痔瘻を伴い、時に黄色の液が流れるのは湿熱下注証である。裂口が菱形で色が灰白で辺縁がきれいでないものは虚結腸燥証である。

2、肛門部の膿瘍
陽証膿瘍は創面に膿液が稀薄で、あるいは血水が流れ、創面の色の特徴は紅・腫・熱・痛がだんだん消え、膿の色が黄色あるいは黄白で、創面に腐肉が剥落しやすく、新肉が伸びやすく、創面が次第に小さくなることである。陰証膿瘍の特徴が紫暗で、腐肉が剥落しにくい、新肉が伸びなく、創面がなかなか治らないことである。

ニ、肛門大腸疾患の治療方法

中医学の治療方法は内治法と外治法に分けられ、一般的に内治法と外治法を併用するが、臨床では外治法を重視していることが多い。内治法でも外治法でも用いられる場合には全身あるいは局部の弁証をしなければならなく、異なる症候によって適当な治療を選ぶことが重要である。

(一)内治法

内治法は疾患の各時期で全身や局部の症状を弁証して治法や処方を選んで行い、漢方薬の内服で体のバランスを調節し、局部の疾患を治療することである。内治法は一般的に消・托・補の三つ治療原則に分けられる。この治療法は肛門部の膿瘍や感染によく用いられる。

1、消法
この治療法は疾患の早期に炎症や痔などを消散するためよく使用される方法である。消法は肛門膿瘍の早期で化膿していない時期に、あるいは血栓痔・外痔・嵌頓痔核などにも適応される。消法はできるだけ肛門膿瘍の早期に用いるが、膿瘍が化膿して膿液が形成してから消法を使用しないように注意する必要がある。

2、托法
この治療法は扶正(抵抗力や免疫能の高め)・袪邪(炎症や感染の除袪)の治療原則によって、正気を強め、毒邪を深部から浅部へ移動させ、炎症の拡散を抑えなだら炎症を局部に収縮させ、膿瘍の膿液を排出させ、膿瘍を治療する方法である。托法は肛門膿瘍の中期に化膿したがまた破潰していない、あるいは破潰しても膿液の流れが悪いものに適応する。臨床では、毒邪と正気の盛衰状態の違いによって托法を透托法と補托法に分けられる。透托法は肛門膿瘍の中期に毒邪が盛んでいるが正気が虚弱していない場合には使い、代表処方として透膿散(黄耆・白芷・川芎・牛蒡子・穿山甲・当帰・金銀花・皀刺)を用いる。補托法は毒邪が盛んで正気が虚弱している場合(全身虚弱の状態)には用い、代表処方とする托裏消毒散(人参・黄耆・白芷・川芎・白芍・白朮・当帰・茯苓・金銀花・皀刺・甘草・桔梗)を投与する。托法は膿液を排出させる効能があるため肛門膿瘍の初期にまだ化膿していない場合には使用しないように注意する必要がある。

3、補法
この治療法は補虚扶正の方剤で体の気血を補い、虚弱の病態を除き、新肉芽の生長を促進し、創面の早期癒合を促進する方法である。補法は肛門膿瘍の後期に膿瘍が破潰して膿液が流れ、体が虚弱している状態に、あるいは手術後に気血の虚弱で創面の癒合が遅れる場合には適応される。補法は益気・養血・滋陰・助陽などの治療方法があり、気・血・陰・陽の虚弱状態の違いによって治療方法を選ぶ。

消法、托法、補法は治療の三つ原則であり、臨床では病気の発生・進展・転帰・症候の変化がとても複雑であり、個人差や症候のタイプがいろいろであるため具体的な治療方法も異なる。常用する治療方法は以下のとおりである。

清熱解毒
この方法は肛門膿瘍、痔瘻、肛門周囲感染症、内痔、外痔などの熱毒積盛証に用いられる。代表処方は黄連解毒湯、五味消毒飲、仙方活命飲などである。

清熱除湿
この方法は肛門膿瘍、痔瘻、肛門周囲感染症、内痔、外痔、裂肛、肛門湿疹などの湿熱証に用いられる。代表処方は清熱利湿湯などである。
滋陰清熱除湿:この方法は肛門膿瘍、痔瘻、肛門周囲感染症などの陰虚湿熱下注証に用いられる。代表処方は滋陰除湿湯などである。

清熱涼血
この方法は内痔、外痔、裂肛出血などの熱盛便血証に用いられる。代表処方は地楡槐角丸、涼血地黄湯などである。

通腑瀉熱
この方法は内痔、外痔、裂肛、肛門膿瘍などの熱結腸燥便秘証に用いられる。代表処方は大承気湯などである。

潤腸通便
この方法は便秘を伴う内痔、裂肛などの陰血不足・腸燥便秘証に用いられる。代表処方は潤腸湯、麻子仁丸などである。

補中益気
この方法は内痔の脱出、脱肛などの中気不足・昇挙無力証に用いられる。代表処方は補中益気湯などである。

益気養血
この方法は気虚による血便、肛門膿瘍、痔瘻などの気血両虚証に用いられる。代表処方は十全大補湯、八珍湯などである。

活血化瘀
この方法は血栓性外痔などの気滞血瘀証に用いられる。代表処方は桃紅四物湯などである。

(二)外治法
外治法は薬物と手術で病変部位あるいは人体表面に直接に治療する方法である。外治法は内治法と同じように中医学の弁証理論によって治療を指導する。外治法は薬物療法、手術療法、他の療法に分けられ、外科疾患治療の中に重要な役割を果たしていると考えられる。

1、燻洗坐浴法
この方法は水蒸気・お湯・薬液を用いて患部を燻す・洗うことによって局部血液循環の改善・炎症吸収や消散の促進などの効果が得られる方法である。使うものはお湯、塩水、漢方薬などである。常用漢方薬については、袪毒湯は清熱解毒・消腫止痛・収斂袪湿の効能があり、各種疾患や手術後に用いられる。苦参湯は袪風除湿・殺虫止痒の効能があり、肛門の皮膚疾患によく使用される。五倍子湯は消腫止痛・収斂止血の効能があり、各種痔・脱肛などに用いられる。使い方は生薬を煎じてその薬液を入れ物に移し、最初に患部を燻し、それから患部を洗い、約10-15分、一日二回行う。この方法は肛門大腸疾患の治療と予防に対して重要な役割を果たしているものである。

2、塞薬法
塞薬法は漢方薬を含む軟膏や栓剤を肛門内に入れ粘膜から吸収されることによって清熱解毒、止痛、止血、創の治癒を促進するなどの効能が発揮する治療法である。常用の軟膏は九華膏、馬応龍麝香痔瘡膏などであり、常用する栓剤は洗必泰痔瘡栓、消炎痛栓、複方痔瘡栓などであり、各種の肛門疾患に広く使われている。洗必泰痔瘡栓は消炎作用が比較的に強く、肛門や直腸の炎症性疾患に適応し、消炎痛栓は鎮痛作用が比較的に強く、裂肛、炎症性外痔、血栓性外痔などおよび手術後の痛みに適応する。また複方痔瘡栓は止血効果が優れ、裂肛や痔などの出血性疾患に使われる。

3、浣腸法
この方法には排便浣腸と保留浣腸がある。排便浣腸は直腸内へ大量の液体を注入し糞便の排出を助け、便秘の治療と手術前の準備に用いられる。保留浣腸は直腸内へ少量の薬液を注入し、腸粘膜の吸収によって効能を発揮し、各種炎症性腸疾患・ポリプ・嘔吐などに使用される。保留浣腸に関する代表的な処方は浣腸方であり、清熱解毒の効能があり、消炎・止血・腸痙攣の緩和や痛みの軽減などの効果が得られる。保留浣腸の場合には薬液の量を150ml以下に抑えたほうが良いが薬量が多くなると薬液が自然に排出され治療効果が失われることが多い。薬液の温度は38℃がよいが高すぎると腸粘膜に傷を付け、低すぎると薬液を保留しにくくなり治療効果が影響される。

4、敷薬法
この方法は患部や創面に各種の薬物を直接に付けることであり、薬の種類が多いため、軟膏、散薬に分けられる。

(1)軟膏
軟膏は薬物の構成成分によって異なる症候に応じて使用される。陽証(炎症がひどく、赤・腫・熱・痛の症状が著しいもの)に対して金黄膏、四黄膏、黄連膏などを用いるが、陰証(炎症が軽く、皮膚の色が紫で、創面が蒼白であるもの)に対して回陽玉龍膏を用い、半陽半陰証に沖和膏を用いる。潰瘍や手術後に生肌玉紅膏や生肌白玉膏を使用して活血去腐・解毒止痛・生肌・収斂創面などの効果が得られる。

(2)散薬
散薬は生薬を粉末にして軟膏に乗せ、あるいは創面に直接に付けることによって治療するものである。

消散の薬
これらの生薬は消散の効能があり、膿瘍の初期、血栓性外痔、炎症性外痔に適応する。陽証には陽毒内消散を用い、解毒消腫、活血止痛の効果が得られる。陰証には陰毒内消散を用い、温経散寒、活血破堅の効果が得られる。半陰半陽証には消腫散を使用する。

提膿去腐の薬
これらの生薬は提膿去腐の効能があり、膿液を速く排出させ、腐肉を早く剥離させ、創面の癒合を促進し、肛門膿瘍における膿液排出不暢、手術後の創面癒合不良などに適応する。常用処方は三仙丹、九一丹、五五丹などである。

生肌収斂の薬
これらの生薬は新肉芽の生長を促進し、創面の癒合を加速する効能があり、肛門疾患の手術後によく使われている。常用処方は生肌散、八宝丹、皮粘散などである。この方法は膿毒がまた残っている場合に、あるいは腐肉がまた剥離していない場合には使用しないように注意する必要がある。

止血薬
これらの生薬は収斂止血の効能があり、手術後あるいは潰瘍の出血に用いられる。常用処方は雲南白薬、三七粉などである。大量出血の場合には手術治療や漢方薬の内服をしなければならない。

5、枯痔法
この方法は痔を壊死させる薬を痔核内に入れたり、表面に塗ったりすることによって痔を枯れさせ、壊死させる治療方法である。常用処方は枯痔釘、枯痔散などである。

6、切開排膿法
この方法は感染性化膿性疾患に膿が形成していた場合に局部を切開して膿を排出させる外科の重要な治療法であり、肛門周囲膿瘍などの肛門直腸感染化膿性疾患によく使われる。

7、結扎法
この方法は糸で患部を繋いで、患部に気血の流通を止めさせ、病変組織を壊死・脱落させる治療方法であり、内痔、外痔、大腸ポリプによく用いられる。

8、掛線法
この方法は薬線あるいはゴム線の重力や弾力を利用して痔瘻の瘻管を緩慢に切開する方法であり、痔瘻、膿瘍、直腸狭窄症などに使われる。この方法は機械的な力を利用して組織を緩慢に切開し、糸の異物刺激作用で組織の炎症反応を引き起こし、局部の組織が次第に線維化し、組織が分離しながら生長・修復することによって長期間に治らない痔瘻を完治することが可能となる。