結腸癌は消化管によく見られる悪性腫瘍であり、41~50歳の年齢に多発する。臨床では右側結腸癌の場合には下痢、腹部の鈍痛、貧血、全身衰弱などが多く、左側結腸癌の場合には便秘、腹痛、出血などがよく見られる。治療では、早期発見や早期手術が重要であり、手術不可能の場合には免疫療法、化学療法、放射線療法などが挙げられる。

一、 病因病機

中医学では、結腸癌は“腹痛”、“腸積”、“臓毒便血” “下血”、“下痢”などの範疇に属する。結腸癌の形成は、憂・思・鬱・怒などの情感失調、飲食の不摂生などが原因で脾胃を傷つけ、脾胃の運化機能を乱し、気滞血鵞・湿毒や熱毒内生の病態をもたらし、癌を形成すると考えられる。

1、気滞血鵞
気にしやすい、考え過ぎ、怒り、抑鬱などが原因で、肝鬱気滞・気機紊乱・臓腑気血失調の病態をきたし、大腸の経絡阻滞によって腫瘍を形成する。

2、湿熱毒結
湿熱が胃腸に長らく停滞すると、胃腸の気機が乱れ、気血の流れが阻滞され、結腸に終結することによって腫瘍を形成する。

3、正虚邪実
腫瘍や癌は体の気血を消耗し、気血や陰陽のバランスを崩し、気血・陰陽の虚損によって全身疲労倦怠感、疲れやすい、消痩、自汗などの症状が見られる。

二、弁証論治

この病気の病態には虚実挟雑・本虚標実がよく見られる。初期には実証が主であり、腹痛がひどく、下痢、血便、粘血便などが現われ、気滞血鵞型や湿熱薀結型に分けて治療する。末期には癌が体の気血を消耗するため、全体的に虚証が主であり、腹痛は軽く、全身虚弱の状態が見られ、正虚邪実型や脾腎両虚型に分けて治療する。

(一)気滞血鵞型

主証 腹痛、腹部の圧痛、痛いところが固定しており、腫塊があり、便の色が紫暗で、腹部膨満、吐き気、嘔吐など。舌質は暗紫、鵞点あるいは鵞斑、舌苔は白、脈は弦渋。
治則 活血化鵞、理気散結
方薬 桃紅四物湯≪医林改錯≫加減
当帰5g 桃仁4g 紅花3g 赤芍5g 金銀花4g 連翹4g 地黄5g 槐花3g 枳実3g 敗醤草5g
加減 便秘を伴う場合には大黄3gを加える。
腫瘍が硬い場合には三稜4g 莪朮4g 炮穿山甲5gを加える。
腹痛を伴う場合には延胡索5g 川楝子4g 厚朴4g 木香3gを加える。
エキス剤 上記の処方がエキス剤にはないので、類似処方として(25)桂枝茯苓丸を用いる。便秘を伴う場合には(61)桃核承気湯を投与する。

(二)湿熱薀結型

主証 腹痛、腹部の膨満感、下痢、血便、粘血便、しばしば発熱、煩悶、口渇、悪心、食欲がない、肛門部の熱感などを伴う。舌質は紅、あるいは舌の裏に赤い点、舌苔は黄膩、脈は滑数。 
治則 清熱解毒、活血化鵞
方薬 清腸飲《辨証録》加減
槐花5g 地楡5g 金銀花5g 白頭翁5g 玄参4g 黄芩4g 黄柏3g 薏苡仁5g  赤芍4g 当帰5g 半枝蓮6g 馬歯見5g 敗醤草9g 苦参5g 
加減 腹痛が激しい場合には延胡索5g 川楝子4gを加える。
口渇、発熱を伴う場合には大黄3g 黄連4g 生地黄5gを加える。
エキス剤 上記の処方がエキス剤にはないので、類似処方として(15)黄連解毒湯を用いる。腹痛がある場合には(68)芍薬甘草湯を頓服として投与する。

(三)正虚邪実型

 
主証 顔色の蒼白、全身疲労倦怠感、動悸、食欲不振、脱肛、痩せるなど。舌質は淡、舌苔は薄白、脈は沈細あるいは虚。
治則 益気養血、化鵞散結
方薬 十全大補湯《和剤局方》加減
党参9g 白朮6g 当帰5g 黄耆9g 川・3g 升麻2g 白芍5g 桂皮2g 熟地黄6g ・苡仁9g 枸杞子6g 菟絲子5g 炙甘草3g 半枝蓮10g
加減 食欲がない場合には鶏内金4g 麦芽5g 神曲4gを加える。
エキス剤 (48)十全大補湯を投与する。微熱、不眠、動悸などを伴う場合には(108)人参養栄湯を用いる。食欲不振を伴う場合には(43)六君子湯を用いる。

(四)脾腎両虚型

主証 腹部の痛み、食欲不振、顔色の蒼白、疲れ易い、腰や下肢の脱力感、四肢の冷え、五更瀉など。舌質は淡、舌体が肥大、舌苔は薄白、脈は沈細無力。 
治則 温腎健脾、扶正培本
方薬 附子理中湯《和剤局方》加減
制附子2g 白朮4g 乾姜3g 党参5g 補骨脂3g 茯苓4g 菟絲子3g 呉茱萸3g 苡仁5g 陳皮4g 炙甘草2g
加減 下痢が止まらない場合には訶子4g 石榴皮4g 五味子5gを加える。
食欲不振を伴う場合には鶏内金4g 麦芽5g 神曲4gを加える。
エキス剤 附子理中湯あるいは(32)人参湯合附子末を投与する。腹痛や下痢を伴う場合には(30+32)真武湯合人参湯を用いる。

三、経験秘方

(一)孫桂芝経験方

方薬 黄白解毒湯
黄耆10g 黄精5g 枸杞子5g 鶏血藤5g 槐花5g 馬歯見5g 敗醤草5g 仙鶴草5g 白英5g
加減 脾胃が虚弱な場合には党参5g 白朮4g 菟絲子4gを加える。
悪心や嘔吐を伴う場合には陳皮4g 半夏4g 茯苓4gを加える。
心悸や不眠を伴う場合には党参5g 酸棗仁5g 当帰4g 茯苓4gを加える。
便秘を伴う場合には冬瓜仁4g 火麻仁4g 番瀉葉2gを加える。
軟便や下痢を伴う場合には訶子4g ・苡仁5g 児茶4gを加える。
腹痛を伴う場合には延胡索4g 香附子3g 烏薬3g 川楝子3gを加える。
効能 益気補血、清熱解毒
主治 大腸癌
出典 《中国中医秘方大全》(腫瘤科分卷)、文匯出版社、P:778、1989。

(二)著者経験方

方薬 扶正・邪湯
黄耆10g 丹参15g 当帰10g ・苡仁20g 陳皮5g 青皮5g 白花蛇舌草20g 半枝蓮20g 體楼10g
加減 脾胃が虚弱な場合には人参6g 白朮4g 山薬6gを加える。
四肢の冷え、寒がりを伴う場合には仙霊脾6g 杜仲5g 桂皮4g 附子3gを加える。
効能 調理脾胃、益気養血
主治 大腸癌、直腸癌(手術後)

四、ポイント症候によるエキス剤の使い方

臨  床  症  状 漢方エキス剤
★腹痛、腹部の圧痛、痛いところが固定しており、腫塊があり、便の色が紫暗で、腹部膨満などが見られる場合。 (25)桂枝茯苓丸
★下腹部の疼痛、便秘、腹部膨満感などを伴う場合。 (61)桃核承気湯
★手術後、進行癌、末期癌に全身の疲労倦怠感、疲れやすい、自汗などを伴う場合。 (41)補中益気湯
★手術後、進行癌、末期癌に食欲不振、味がない、軟便、腹部膨満感などを伴う場合。 (43)六君子湯
★手術後、進行癌、末期癌に顔色が悪い、貧血、全身の疲労倦怠感、食欲不振などを伴う場合。 (48)十全大補湯
(108)人参養栄湯
★寒がり、腹部の冷え、冷たいものを食べたり飲んだりするとすぐ腹痛を起こす場合。 (32)人参湯
附子理中湯
★末期癌に全身の虚弱、腹痛や腹部の不快感などを伴う場合。 (98)黄耆建中湯
★手術後に腸管通過障害、腹痛、腹部膨満感などの場合。 (100)大建中湯
★食欲不振、顔色の蒼白、疲れ易い、腰や下肢の脱力感、四肢の冷え、五更瀉などがある場合 (30+32)真武湯合人参湯