痔は肛門縁に位置し、肛門周囲の皮膚におおわれた皮下静脈叢である。臨床では疼痛、肛門掻痒感、異物感、排便困難などの症状が見られる。中医学では湿熱下注、脾虚気陥などが原因で気血の運行障害・経脈阻滞の病態をもたらし、外痔を形成することであると考えられる。
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一、弁証論治
外痔の弁証論治は内痔と同じであるが気滞血瘀、湿熱下注の証がよく見られる。
1、気滞血瘀型
症候 | 肛門縁に腫物があり、肛門の不快感・腫脹感・痛み、しばしば排便の場合には腫物が増大し、痛みがひどくなる。舌質が暗紅、舌苔が淡黄、脈は弦渋。 |
治法 | 活血化瘀、理気通便 |
方剤 | 桃核承気湯「傷寒論」加減 桃仁5g 大黄3g 川芎5g 赤芍薬5g 牡丹皮5g 枳穀5g 栝楼仁5g 檳榔5g 黄連3g 炙甘草3g 黄連3g 炙甘草3g |
漢方エキス剤 | (61+25)桃核承気湯合桂枝茯苓丸を用いる。 |
2、湿熱下注型
症候 | 肛門縁に腫物があり、肛門の灼熱感・痛み、分泌物が多い、便秘あるいは軟便。舌質が紅、舌苔が黄膩、脈は滑数。 |
治法 | 清熱利湿 消腫止痛 |
方剤 | 防風秦艽湯「外科正宗」加減 防風5g 秦艽5g 当帰5g 川芎5g 連翹5g 檳榔5g 山梔子5g 地楡5g 枳穀5g 槐角5g 白芷5g 蒼朮3g 炙甘草3g |
加減 | 便秘を伴う場合には大黄3gを加える。 |
漢方エキス剤 | 漢方エキス剤には適当な処方がないがそのかわりに(76)竜胆瀉肝湯を用いる。便秘の場合には(84)大黄甘草湯を合方する。 |
3、脾虚気陥
症候 | 肛門縁に腫物があり、肛門の墜脹感(上から下へ墜落するような感じ)、いつも便意がある。しばしば疲労倦怠感、疲れやすい、食欲不振、軟便あるいは下痢などを伴う。舌質が淡で肥大、舌苔が薄白、脈は沈細無力。 |
治法 | 調理脾胃、昇陽固脱 |
方剤 | 補中益気湯「弁惑論」加減 黄耆10g 人参6g 当帰6g 陳皮3g 升麻3g 柴胡3g 白朮6g 甘草3g |
漢方エキス剤 | (41)補中益気湯を用いる。 |
二、局部治療法
中医学の治療は全身のバランスを重視しているが、肛門局部の治療も強調している。局部の治療には薬物の外敷や燻洗坐浴法などがあり、症状あるいはその頻度、重症度、そして医師の好みによって選ばれる。
1、 外敷法:
この方法は患部や創面に各種の薬物を直接に付けることであり、薬の種類が多いため、臨床で常用されるものを紹介する。
(1)四黄膏
処方 | 黄連、黄芩、黄柏、山梔子 |
効能 | 清熱消腫、涼血止痛 |
適応症 | 内痔、外痔の炎症・腫脹・手術後の痛み、皮膚の感染症など。 |
以上の生薬を同量で粉末にして、四黄粉30gをクリーム70gと充分に混ぜて患部に付ける。 |
(2)九華粉
処方 | 滑石20g 月石6g 竜骨6g 浙貝母6g 朱砂6g 氷片0.5g |
効能 | 袪湿止痒、消炎止痛 |
適応症 | 肛門湿疹、肛門周囲皮膚炎、皮膚掻痒症。 |
使い方 | 以上の生薬を粉末にして、患部に付ける。 |
(3)九華膏
処方 | 滑石20g 月石6g 竜骨6g 浙貝母6g 朱砂6g 氷片0.5g |
効能 | 消炎消腫、止血止痛 |
適応症 | 内痔の出血腫脹、外痔の炎症疼痛、裂肛、肛門直腸炎など。 |
使い方 | 以上の生薬を粉末にして、30gをクリーム70gと充分に混ぜて患部に付ける。 |
2、燻洗坐浴法:
この方法はお湯・薬液を用いて患部を燻す・洗うことによって局部血液循環の改善・炎症吸収や消散の促進などの効果が得られる方法である。
(1)燻洗方
処方 | 朴硝30g 馬歯莧20g 瓦松15g 当帰15g 赤芍15g 黄柏15g 蒼朮15g |
効能 | 清熱解毒、活血化瘀、利湿軟堅、消腫止痛 |
適応症 | 内痔、外痔、痔瘻、肛門周囲膿瘍、裂肛の排便後の疼痛など。 |
使い方 | 以上の生薬に水を入れ煎じて、1000mlぐらい薬液になってから薬液を容器に移し、患部を洗うあるいは坐浴する。 |
(2)消腫止痛方
処方 | 瓦松30g 五倍子30g 馬歯莧30g 艾葉30g 川椒30g |
効能 | 消腫止痛、収斂 |
適応症 | 外痔の炎症、血栓性外痔、脱肛など。 |
使い方 | 以上の生薬に水を入れ煎じて、1000mlぐらい薬液になってから薬液を容器に移し、患部を洗うあるいは坐浴する。 |
(3)袪毒湯
処方 | 苦参30g 五倍子30g 朴硝30g 側柏葉20g 蒼朮15g 炙甘草10g 葱白3本 |
効能 | 活血、消腫止痛 |
適応症 | 各種痔の炎症・疼痛、急性校門周囲膿瘍、手術後の浮腫など。 |
使い方 | 以上の生薬に水を入れ煎じて、出来たら薬液を容器に移し、患部を洗うあるいは坐浴する。 |