潰瘍性大腸炎は主として大腸の粘膜を侵し、しばしば糜爛や潰瘍を形成する原因不明の糜爛性非特異性の炎症疾患である。患者の年令層は広く、子供でも見られる。原因はまだ不明で免疫病理的機序や心理的な要因も関与し、飲食、疲労、感染、精神、神経などの諸因子で誘発したり増悪したりすると考えられる。臨床症状では血性下痢、粘液便、腹痛、種々の程度の全身虚弱状態が見られる。
中医学では潰瘍性大腸炎は“久泄”、“久痢”、“休憩痢”の範疇に属する。中医学の治療は下痢や血便を止めるだけではなく、免疫能を調整し、体質を増強し、胃腸機能を改善し、ステロイド剤副作用を軽減し、寛解期間を延長させるなどが認められている。

一、病因病機

本病の病因は主に脾腎虚損による胃腸機能の失調であり、外邪の侵入、情志の失調が発病の誘因である。

1、湿熱蘊結
湿熱が胃腸に侵入し、脾胃の運化機能を失調させ、大腸の機能が乱され、腹痛、下痢、粘液便、膿血便などの症候が現れる。また飲食不節制が原因で脾胃を傷つけ、湿熱を生じ、大腸に影響して発病する。

2、気滞血瘀
情志の失調、気にしやすい、精神的ストレスなどが原因で肝の疏泄機能に影響し、肝気鬱結の病態をもたらし、さらに横に脾胃を犯し、脾の運化機能を失調させ、大腸気血運行を障害し、病気を起こす。

3、脾腎両虚
疲労(精神的疲労、肉体的疲労、性的疲労)は脾気や腎精を消耗し、脾腎両虚の病態をもたらし、また腎陽が虚弱すると、脾陽を温煦することができず、脾の運化機能が失調するため発病する。

4、陰血虚損
平素体質が弱い、あるいは過度疲労が気血を傷つけ、気血虚弱の病態をもたらす。気血虚弱は脾胃や大腸の機能に影響し、発病する。また外邪は気血が虚弱しているうちに侵入し、さらに陰陽のバランスを失調させ、病気が重くなる。下痢が長引き、慢性化すると正気が益々弱くなり、胃腸機能がさらに低下し、消化吸収障害で水穀精微が不足し、陰血・腎精がさらに不足になり、悪循環の状態になる。

二、弁証論治

本病の病態は虚実錯雑、本虚標実であり、臨床の症状と病理的な特徴によってまず虚実を弁別しなければならない。急性期には標実が主で、湿・熱・気滞の軽重を判断し、慢性期には本虚が主で、しばしば虚実錯雑の症候が見られる。急性期には清熱利湿の生薬を用い、大腸の炎症を抑え、慢性期には益気健脾補腎の生薬を用い、免疫能の調整、体質の改善、消化吸収機能の増強などを行う。虚実錯雑の場合には両方とも使用することもある。

1、湿熱蘊結型

症候 発熱、下痢、又は裏急後重、粘液便や膿血便、腹痛、肛門部の熱感、食欲がない、あるいは口苦、口臭、大腸ファイバーによって腸粘膜が充血、糜爛、出血、あるいは腸粘膜潰瘍の周辺は赤く、膿性分泌物が見られるなど。舌質は赤い、舌苔は黄膩、脈は     滑数。
治法 清熱燥湿、涼血導滞
方剤 白頭翕湯《傷寒論》合芍薬湯《保命集》加減
白頭翕6g 黄連3g 秦皮4g 木香2g 厚朴4g 枳殻4g 当帰4g 黄芩4g 白芍5g 甘草3g 金銀花炭5g 檳榔子3g
加減 腹部膨満感を伴う場合には厚朴5g、大腹皮4gを加える。
悪心、嘔吐を伴う場合には竹?3g、生姜5gを加える。 
漢方エキス剤 漢方エキス剤に以上の処方がないため、その代わりに(15+14)黄連解毒湯合半夏瀉心湯を用いる

2、肝鬱脾虚型

症候 精神的ストレスによって下痢が誘発や増悪され、下痢の時に腹痛を伴い、胸脇苦満、食欲不振、腹部膨満、嘔気あるいは悪心、大腸ファイバーによって腸粘膜が軽度充血、浮腫など。舌質は淡紅、舌苔は微黄、脈は弦緩。
治法 疏肝理気、健脾止瀉
方剤 痛瀉要方《景岳全書》合四逆散《傷寒論》加減
柴胡5g 白朮5g 白芍5g 陳皮4g 枳穀4g 甘草3g 防風3g 茯苓4g 烏梅3g
加減 水のような便が見られる場合には車前子5g、乾姜4gを加える。
膿血便を伴う場合には白頭翕5g、黄連3g加える。
腹痛が見られる場合には青皮4g、香附子5gを加える。
漢方エキス剤 漢方エキス剤に以上の処方がないため、その代わりに(24)加味逍遥散あるいは(35+43)四逆散合六君子湯を用いる。

3、気滞血瘀血型

症候 粘液性膿血便、血便の色が紫暗あるいは黒便、裏急後重、腹痛は強く、食欲不振、腹部膨満、大腸ファイバーによって腸粘膜は粗造または細顆粒状を呈し、偽ポリポーシスがみられるなど。舌質は紫色、あるいは瘀点や瘀斑、脈は弦渋。
治法 行気活血、化瘀止瀉
方剤 少腹逐?湯《医林改錯》加減
乾姜4g 延胡索5g 小茴香3g 没薬4g 当帰5g 川?3g 桂皮2g 赤芍4g 蒲黄4g 五霊脂3g 丹参3g 劉寄奴4g 焦山査4g
漢方エキス剤 漢方エキス剤に以上の処方がないため、その代わりに(35+25)四逆散合桂枝茯苓丸を用いる。

4、脾腎両虚型

症候 薄い粘液性便や下痢が繰り返し、特に夜明けに腹鳴があり下痢する(五更瀉)、全身の疲労倦怠感、寒がり、四肢の冷え、食欲不振、腹部の冷え、暖かいものが欲しく、大腸ファイバーでは腸粘膜の水腫、粘膜潰瘍が浅く、周辺が赤くなく白い分泌物を付着している所見など。舌質は淡、舌苔は薄白、脈は沈細。
治法 温腎健脾、止瀉
方剤 四神丸《内科摘要》合人参湯《傷寒論》加減
人参5g 白朮5g 乾姜4g 炙甘草3g 補骨脂4g 呉茱萸4g 肉寇3g 五味子4g 木香2g 訶子3g 赤石脂4g
加減 下痢がなかなか止まらない場合には黄耆10gを加える。
食欲不振を伴う場合には砂仁4g、麦芽5gを加える。
漢方エキス剤 漢方エキス剤に以上の処方がないため、その代わりに(30+32)真武湯合人参湯あるいは附子理中湯を用いる。

5、気陰両虚型型

症候 下痢や便秘が繰り返し、排便困難、貧血、体力低下、痩せ、疲労倦怠、立ち眩み、眩暈、不眠など、手足のほてり、のぼせ、午後に潮熱が見られる。大腸ファイバーによって腸粘膜が細顆粒状を呈し、光沢がなく、血管がよく見えるなど。舌質は淡紅、舌苔は少ない、脈は沈細数。
治則 益気補血、固腸止瀉
方薬 生脈散《内外傷辨惑論》合六君子湯《医学正伝》加減
人参4g 麦門冬5g 五味子4g 茯苓5g 白朮4g 炙甘草3g 黄耆9g 山薬5g 赤石脂4g 天門冬4g 烏梅3g 欠実4g
加減 血便を伴う場合には地楡4g 仙鶴草4gを加える。
漢方エキス剤 漢方エキス剤に以上の処方がないため、その代わりに(128)啓脾湯あるいは(43+87)六君子湯合六味地黄丸を用いる。

三、非手術治療

1、 一般的治療

(1) 休息
急性期に患者が充分な休息を取るべき、精神的ストレスがひどい場合には安定剤を投与する。

(2) 飲食
消化しやすい、繊維が少ない、栄養が豊富なものを食べさせ、腸を刺激するものを避ける。

(3) 支持療法
重症な患者に対して水分、ビタミン・電解質の補充が必要である。ひどい場合には輸血を考える。

2、 薬物治療

(1)漢方エキス剤や煎じ薬を用いて、症候によって投与する。

(2)症状が激しい場合にはステロイド剤や免疫抑制剤と漢方薬を併用する。症状が改善してからステロイド剤や免疫抑制剤を減量し、次第に中止する。

(3)保留浣腸
症候によって漢方薬を選んで行う。

3、 針灸治療

針灸治療は腸の機能を調節し、体の免疫能や抵抗力を高める効果が得られる。常用ツボは中?、天枢、足三里、関元、大腸兪などである。

ツボ注射
次?にビタミンC500mgを用いて注射する。一週間に2~3回に行う。

四、臨床研究

潰瘍性大腸炎は頻回の粘血下痢、腹痛、発熱、貧血などの症状があり、過労、精神ストレスによって再燃や増悪する大腸の慢性炎症性疾患である。臨床では潰瘍性大腸炎とクローン病が難治性の炎症腸疾患の代表であり、西洋医学の治療ではサラゾピリンとステロイドホルモンが薬物療法の主体であるが、治療効果は十分とは言えない。
現代中医学では西洋医学の診断を行ない、患者の体質状態、精神状態、病状の軽重、経過の長さによりいくつのタイプに分けて治療する。それに漢方薬の実験的研究によって治療効果を判定する臨床研究が進んでいる。
中国の最近十年間の文献によると2084例の潰瘍性大腸炎患者の中、1833例が漢方薬で治療された。その中、治癒1075例(58、65%)、寛解677例(36、93%)、無効81例(4、42%)、総有効率95、58%であった。中西医結合の方法で治療された193例では治癒104例(53、89%)、寛解80例(41、45%)、無効9例(4、66%)、総有効率95、34%であった。西洋医学の薬で治療された58例では治癒14例(24、14%)、寛解26例(44、83%)、無効18例(31、03%)、総有効率68、97%であった。

(一)漢方薬を煎じて内服して治療した232例では治癒125例(53、88%)、寛解92例(39、66%)、無効15例(6、47%)、総有効率93、54%であった。例えば、李氏は益気活血法:黄耆10g、紅参3g、当帰5g、赤芍5g、白芍5g、白朮6g、扁豆5g、川澵4g、延胡索4g、炮姜4gを用いて60例の潰瘍性大腸炎の患者を治療した。治療結果は治癒23例、著効19例、有効12例、無効6例、総有効率90%であった。

(二)漢方薬を煎じて保留浣腸して治療した1016例には治癒609例(59、94%)、寛解370例(36、42%)、無効37例(3、64%)、総有効率96、36%であった。例えば、郭氏は白茶湯:白頭翁5g、地楡5g、黄柏5g、児茶5gを基本処方として、脾虚湿熱型に白頭翁5g、草河車5g、蒲公英10gを加え、脾虚肝旺型に白芍5g、炒枳殻5g、防風4g、炒山薬10gを加え、脾胃虚寒型に黄柏を除き、砂仁3g、木香4gを加え、脾腎陽虚型に黄柏を除き、附子3g、肉寇4g、蓮肉4gを加えて、煎じた湯液で保留浣腸に行なった。治療した105例の中に治癒85例(90、95%)、有効16例(15、23%)、無効4例(5、82%)、総有効率96、18%であった。

(三)漢方薬の内服プラス保留浣腸の方法で治療した443例では治癒280例(63、21%)、寛解144例(32、51%)、無効19例(4、29%)、総有効率95、72%であった。例えば、趙氏らの研究では30例の患者を益気活血法と清熱除湿法の二つグルプに分けて治療した。益気活血法では内服処方は黄耆9g、党参5g、白朮5g、茯苓5g、赤芍4g、延胡索4gを、浣腸処方は血竭5g、蒲黄5g、丹参10g、児茶4gを用いた。この方法で6週間治療した18例中、治癒3例(16、67%)、有効15例(83、33%)であった。清熱除湿法では内服処方は黄耆10g、党参5g、白朮5g、茯苓5g、白芍5g、木香4gを、浣腸処方は黄連4g、敗醤草10g、魚腥草9g、甘草5gを用いた。この方法で6週間治療した12例中、治癒2例(16、67%)、有効11例(83、33%)であった。臨床症状では主要症状の下痢、粘液便や膿血便、発熱、腹痛、裏急後重などについての消失率は益気活血法で治療した18例中、14例(77、78%)で、清熱除湿法で治療した12例中、9例(75%)で、脾虚証の食欲不振、腹部膨満、無力、倦怠感、痩せなどについての消失率は益気活血法で治療した18例中、15例(83、33%)、清熱除湿法で治療した12例中、8例(66、67%)で認められた。治療6週後に行なった大腸ファイバーの検査では大腸の炎症、水腫、潰瘍などが治療前に比べて軽減した。
以上の治療経験をまとめると漢方薬の内服プラス保留浣腸の方法及び漢方薬を煎じて保留浣腸の方法は有効率が高く、良好な臨床効果が期待できると考えられる。

五、漢方エキス剤の使い方

臨  床  症  状 漢方エキス剤
★発熱、下痢、血便、腹痛、肛門部の熱感がある場合。 (15)黄連解毒湯
★発熱、下痢、又は裏急後重、粘液便や膿血便、腹痛、肛門部の熱感、食欲がない場合。 (15+14)黄連解毒湯合半夏瀉心湯
★胸脇苦満、食欲不振、腹部膨満、吐きけあるいは悪心などの場合。 (35+43)四逆散合六君子湯
★心窩部の痞え感、腹部膨満感、悪心、嘔吐などがある場合。 (14)半夏瀉心湯
★口渇、尿量減少、むくみなどを伴う下痢。 (114)柴苓湯 (114)柴苓湯
★体が弱く痩せている子供で、下痢、顔色が悪い、食欲不振などの場合。 (128)啓脾湯
★四肢や腹部の冷え、下痢、腹痛、食欲不振、冷たいものを食べたり飲んだりすると、症状が悪くなる場合。 (32)人参湯
附子理中湯
★毎日夜明けると、腹痛、腹鳴、下痢などが起こる場合。 (30+32)真武湯合人参湯、附子理中湯
★疲労倦怠感、食欲不振、下痢、疲れやすい場合。 (43)六君子湯
★疲労倦怠感が激しい、脱肛あるいは内臓下垂を伴う場合。 (41)補中益気湯
★回復期に顔色が悪く、疲れやすい、手足の冷え等を伴う場合。 (48)十全大補湯
(108)人参養栄湯