【組成】人参、乾姜、炙甘草、白朮   
【効能】温中散寒、補気健脾、温陽摂血
【主治】1、脾胃虚寒
    2、陽虚不摂血
【適応症】
1、脾胃虚寒:食欲不振、口渇がない、腹痛、腹部膨満感、下痢、悪心、嘔吐、四肢の冷え、舌苔が淡白、脈が沈遅で無力など。
2、陽虚不摂血:鼻出血、血便、不正性出血などが見られ、顔色が悪く蒼白で、元気がない、疲れやすい、脈が細あるいは虚大無力などを伴う。 
【処方解説】脾胃の陽が虚弱すると内寒が生じ、運化が不足するため昇降が失調する。本方が温中散寒、補気健脾によって脾胃の運化機能を助け昇降を回復させる。乾姜は辛熱で脾胃を温めて陽気を高め、裏寒を除く君薬である。人参は甘・微温で脾胃の気を補って脾胃の運化機能をつよめ、昇降を回復させ、臣薬である。白朮は甘温で健脾燥湿によって人参を助け、佐薬の役割に立つ。炙甘草が補気和中するとともに諸薬を調和し、使薬となる。
【参考】
本方は現代薬理研究によって、以下のことを証明している。
(1)胃酸の濃度を低下させることによって胃の粘膜を保護し、潰瘍の回復を促進する。(2)血中のコリンエステラーゼの濃度を下がり、自律神経の機能を改善、調整する。
(3)副腎皮質機能を調整し、骨髄の造血機能を促進し、基礎代謝を強める。
(4)大黄あるいは大黄・芒硝の連続投与によって作った脾胃陽虚のマウスモデル(下痢、食欲不振、活動減少、脱肛、寒がり、疲れやすい、体重減少、痩せなど)に附子理中丸(人参湯+附子)を投与してから上述症状の軽減、免疫能の高め、水泳時間の延長、死亡率の減少などの効果が報告された。
(5)臨床研究では、脾胃陽虚の患者に副腎皮質機能減退、内臓副交感神経興奮、細胞免疫能低下と体液免疫能亢進、低血圧などの病理的な変化が見られ、人参湯を投与して前述の病理的な変化が明らかに改善されたことを報告している。

【臨床応用】
本方は脾胃虚寒証を治療する方剤であり、慢性胃炎、胃十二指腸潰瘍、慢性結腸炎、消化不良症、その他の疾患で、脾胃虚寒の症候を呈するものに適用する。
※ 食欲不振、口渇がない、腹痛、腹部膨満感、下痢、悪心、嘔吐、四肢の冷え、温かいものが好きなどの症状が本方を使用する上での重要なポイントである。
(1)慢性胃炎、胃十二指腸潰瘍:上腹部に痛みがあり、痛いところに温めると痛みが軽減するが冷たいものを食べたり飲んだりすると痛みがひどくなるのが特徴である。また胃痛とともに食欲不振、腹部膨満、四肢の冷えなどの症状を伴う場合に適応する。
(2)慢性結腸炎、潰瘍性大腸炎:下痢、腹痛があり、腹部の冷え、温かいものが好き、全身倦怠感、食欲不振などの症状を伴う場合に適応する。
(3)慢性下痢:臨床では胃腸の炎症が見られないが下痢がなかなか治らない、特に冷たいものを食べたり飲んだりすると下痢がひどくなる、また腹部や四肢の冷え、腹痛、体が疲れやすい、食欲不振などの症状を伴う。この場合に本方を投与するとよい効果が得られる。腹部の冷えや下痢がひどい場合には附子理中湯を投与し、あるいは真武湯を合方する。
(4)男性不妊症:男子では精子の量が少ない、あるいは精子の活動率が低いとともに、腰痛、腰や下肢の脱力感、四肢の冷え、寒がりなどを伴う場合には人参湯合八味地黄丸を投与する。
(5)慢性腎不全:腰部や四肢の冷え、尿量減少、食欲不振などの症状が見られる場合には人参湯合大黄甘草湯を投与する。

【使用上の注意】
1、本方は温燥の性質を持つため、手足のほてりやのぼせ、潮熱などの陰虚内熱の症状が見られる場合には禁忌である。
2、発熱がある患者には投与しない。