【組成】半夏、茯苓、厚朴、蘇葉、生姜 
【効能】行気散結、降逆化痰
【主治】痰気鬱結・梅核気
【適応症】
咽喉部に梗塞感や異物感があり嚥下しても喀出してもとれない、胸部が脹って苦しい、咳、痰、悪心、嘔吐、喘鳴、腹部膨満感、舌苔が白潤あるいは白膩、脈が弦滑。
【処方解説】
本方は、肝気鬱結・肺胃の宣降失調による梅核気(ヒステリー球)を治療する代表処方であり、小半夏加茯苓湯に厚朴、蘇葉を加えたものである。半夏は辛温で化痰開結・和胃降逆の効能があり、袪痰・鎮咳・止嘔に働き、主薬となる。厚朴は辛苦温で行気解鬱・下気除満の効能があり、半夏に補助する。生姜は辛温で和胃止嘔・温中散寒の効能を持ち、半夏の降逆和胃に助ける。茯苓は滲湿健脾に働き、半夏の化痰に補佐する。蘇葉は辛温で芳香行気に働き、茯苓・生姜とともに半夏、厚朴を補佐する。本方は辛・苦・温の生薬の配合により、辛をもって気滞と鬱結を解消し、苦をもって気逆を降下させ、温をもって気滞を宣通す、痰飲を除くため行気散結・降逆化痰の効能が得られる。
【参考】
本方は薬理研究によって、(1)咽喉反射の抑制作用:麻酔された猫に本方を投与することによって咽喉反射を抑制され、20-30分後に正常に戻る、処方構成の中に厚朴、蘇葉だけが同様な咽喉反射の抑制作用を持っている、(2)鎮静作用:本方の投与によりラットの自発活動を著しく抑制する、(3)抗アレルギー作用:Ⅰ型とⅡ型のアレルギー反応に対して著明な拮抗作用を示すなどが証明されている。

【臨床応用】
本方は、咽喉部の梗塞感や異物感、胸部の脹満感、咳、痰、悪心、嘔吐、喘鳴、腹部膨満感などの症候が現われる場合に用いる。

1、ヒステリー球(梅核気)、咽喉部の異物感:
咽喉部に梗塞感や異物感があり嚥下しても喀出してもとれない、あるいは胸骨後や食道部に梗塞感や異物感があり、気にしやすい、気分がふさぎ、不眠、精神不安などの症候を伴う場合には本方を用いる。
2、胃食道逆流症:
胸焼け、呑酸、吐き気、嘔吐などの症候が見られる場合には本方を用いる。効果が得られない、あるいは胸部の苦満感や胸痛を伴う場合には半夏厚朴湯合四逆散を投与する。
3、神経性胃炎・胃炎:
精神的ストレスにより心窩部の苦満感やつかえ感を訴え、あるいは心窩部に抵抗、圧痛があり、胃痛、吐き気、胸やけなどの症状が見られる場合には用いる。
4、気管支喘息:
アレルギーが原因で気管支喘息を引き起こし、呼吸困難、喘鳴、胸部の苦満感などの症状を伴う場合には本方を投与するとよい効果が得られる。
5、神経症、抑うつ、自律神経失調症:
気にしやすい、抑うつ状態、精神不安、不眠、胸部の煩悶感、腹部膨満感、吐き気、嘔吐、食欲不振などの症候が見られる場合には用いる。体が弱くて食欲不振を伴う場合には半夏厚朴湯合六君子湯を投与する。
6、その他に、気管支炎、咽喉炎、声帯浮腫、神経性嘔吐、妊娠嘔吐、咽喉神経症、ヒステリー、放射線治療や化学療法による悪心・嘔吐などに、上述の胃気上逆や痰気鬱結の症候を呈する場合にも用いる。

【使用上注意】
1、本方は燥性が強いので、ほてりやのぼせなどの陰虚症が見られる場合には投与しない。
2、本方は癌による咽喉部や食道部の閉塞感や異物感に対しては効果がない。