【出典】小児薬証直訣
【組成】地黄、山薬、山茱萸、沢瀉、茯苓、牡丹皮   
【効能】滋陰補腎、瀉火
【主治】腎陰虚、火旺
【適応症】
腰や膝がだるくて脱力感、頭のふらつき、めまい、耳鳴り、聴力減退、手のひらや足のうらのほてり、のぼせ、身体の熱感、口や咽喉部の乾燥感、午後の潮熱、寝汗、遺精、歯の動揺、舌質は紅絳、舌苔は少ないあるいは無苔、脈は細数など。
【処方解説】
本方は、腎、肝、脾を併補しつつ、補腎陰が主体になっている。また、陰虚火旺に対して、滋陰を主とし清熱を補助した配合でもある。
熟地黄は甘・微温で滋補腎陰・填精補髄に働き、主薬である。山茱萸は酸・温で養肝益腎、渋精に、山薬は甘・平で滋肝補脾、渋精に働いて、脾・肝・腎の陰を滋補するとともに陰精の漏出を抑制する。三陰を併補することにより滋補腎陰の効果をつよめることができる。以上が「三補」である。沢瀉は甘寒で利水滲湿・清熱に働き、腎陰虚による水液代謝失調で生じた湿濁を除き、熟地黄の滋膩(甘味があってしつこい)を防止し、内熱を下泄する。茯苓は甘淡平で健脾利水により山薬を補佐し、脾湿を除く。牡丹皮は辛苦・微寒で清熱涼血に働き、内熱・肝火を清泄し、山茱萸の温性を抑制する。この三薬が「三瀉」あるいは「三開」と言われる。三補三瀉の併用により、滋陰補腎の効能が得られ、胃腸障害などのような滋滞を引き起こさず、降泄(清熱、利水、瀉火)しても正気を傷つけることはなく、腎陰を補う効果をつよめることができる。

【参考】
本方は薬理研究によって、以下のことが証明されている。
(1)抗低温、抗疲労、(2)腎機能を調節する(尿素の排泄を促進する)、(3)肝機能を保護する、(4)聴神経機能を保護する、(5)腫瘍を持つ動物の免疫、代謝、造血機能を改善するため、延命効果がある。(6)食道上皮細胞の癌化を抑制する、(7)血糖、中性脂肪、尿素窒素を降下する、(8)血圧降下作用、(9)カルシウムやリンの代謝を調整する、(10)免疫能の調節作用、抗老化作用など。

【臨床応用】
本方は補陰の基本処方であり、腎陰不足に適応する。臨床では、腰や膝の脱力感、めまい、耳なり、潮熱、寝汗、手足のほてり、舌質は紅、舌苔は少ない、脈は細数などの症候が弁証のポイントである。
(1)糖尿病:腰や下肢の脱力感、腰痛、寝汗、手足のほてり、のぼせ、めまいなどの症状を伴う場合には本方を投与すると、血糖降下や臨床症状の改善が得られる。眼底出血が見られる場合には六味丸合黄連解毒湯を用いる。網膜脱落の症状が見られる場合には六味丸合四物湯を投与する。末梢神経障害の症状があれば、六味丸合桂枝茯苓丸を用いる。
(2)甲状腺機能亢進:本方は腰や膝の脱力感、潮熱、寝汗、手足のほてり、いらいらする、興奮しやすい、ふらつきなどの症状を伴う場合に適応する。
(3)リュウマチ性関節炎:本方は腰や膝の脱力感、関節の熱感や痛み、潮熱、寝汗、手足のほてりなどの症状が見られる場合に用いられる。特に子供の場合にステロイドの代わりに投与するとよい効果が得られることが報告されている。
(4)気管支喘息:本方は喘息、腰や下肢の脱力感、めまい、耳なり、潮熱、寝汗、手足のほてりなどの症状が見られる場合に適応する。特に子供の喘息に対して体質の改善、発作の予防などの効果が得られる。
(5)腎炎、ネフローゼ:腰や下肢の脱力感、手足のほてり、のぼせ、寝汗、浮腫、蛋白尿、高血圧などの症状が見られる場合に適応する。急性腎炎より慢性腎炎のほうに治療効果がある。
(6)男性不妊症:精子の数が少ない、血清抗精子抗体陽性、精子活動率の低下などが見られる患者に、腰や下肢の脱力感、寝汗、手足のほてり、のぼせなどの症状を伴う場合に本方を投与するとよい効果が得られる。
(7)慢性前立腺炎:排尿困難、残尿感、陰部不快感、腰や下肢の脱力感、手足のほてりやのぼせなどの症状が見られる場合には本方を投与する。
(8)更年期症候群:本方は、腰や下肢の脱力感、めまい、耳なり、潮熱、寝汗、手足のほてりなどの症状が見られる場合に適応する。
(9)小児の発達不良:小児の発達が遅れる場合(歯遅、行遅、智遅、語遅、泉門閉鎖遅延などの五遅)には本方を投与すると、発達を促進する効果が得られる。
(10)小児発熱:小児に原因不明の発熱が続き、口渇、疲労倦怠感、手足のほてり、のぼせなどの症状を伴う場合には本方を投与すると解熱や体質の改善などの効果が得られる。熱が高い時に白虎加人参湯を合方する。
(11)小児のアトピー性皮膚炎:小児の皮膚に発疹、カサカサする、かゆみ、熱感が見られる場合には本方を投与する。
(12)夜尿症:夜尿、元気がない、寝汗、手足のほてり、のぼせなどの症状が見られる場合に適応する。子供の夜尿症には、しばしば腰椎分裂症を伴うことがあり、六味地黄丸を投与することにより腰椎分裂症を完治したことが報告されている。年齢は若ければ若いほど本方を用いれば治療期間を縮小することができる。

【使用上の注意】
本方は薬性が滋膩(甘味があってしつこい)であるので胃腸が弱く、軟便や下痢の症状を伴う場合には慎重に投与する。

【関連処方】
(1)知柏地黄丸:六味地黄丸+知母、黄柏。(滋陰降火)
(2)麦味地黄丸:六味地黄丸+麦門冬、五味子。(養陰、斂肺、補腎)
(3)都気丸:六味地黄丸+五味子。(斂肺補腎)
(4)杞菊地黄丸:六味地黄丸+枸杞子、菊花。(滋陰補腎、養肝明目)
(5)八味地黄丸:六味地黄丸+桂枝、附子。(温補腎陽)
(6)牛車腎気丸:六味地黄丸+桂枝、附子、車前子、牛膝。(温補腎陽、利水消腫)