【出典】金匱要略
【組成】地黄、山薬、山茱萸、沢瀉、茯苓、牡丹皮、桂枝、附子   
【効能】温補腎陽
【主治】腎陽虚証、腎陰陽両虚証
【適応症】
腰や下肢がだるくて力がない、腰や下肢の冷感、四肢の冷え、ふらつき、耳鳴り、聴力減退、寒がり、インポテンツ、頻尿、排尿困難、夜間多尿、遺尿、浮腫、歯の動揺、舌質は淡白、舌苔は白滑、脈は沈で無力など。

【処方解説】
本方は、六味地黄丸に附子、桂枝を加えたものであるが、元来は八味地黄丸をものにして六味地黄丸がつくられた。
腎陽は腎陰を基礎にして機能し、腎陰は腎陽の働きによって補充され、互いに依存しあった陰陽互根の関係にあるため、腎陽を補うときには腎陰も補う必要がある。また、補陽薬は温燥の性質があって陰液を消耗するところからも滋陰の配慮が必要となる。
滋補腎陰・填精補髄の熟地黄を主体に、肝脾の精血を滋補する山茱萸・山薬で補助して腎陰を滋養し、少量の温補腎陽の附子と通陽の桂枝で腎陽を鼓舞する。利水滲湿の茯苓・沢瀉は、停滞した水湿を除くとともに滋陰薬の膩滞を防止する。活血化瘀の牡丹皮は、通陽の桂枝・附子と協同して腎絡を通じる。全体で腎陰を補充し腎陽を鼓舞して水湿を除去する。

【参考】
本方は現代薬理研究によって、以下のことを証明している。
(1)抗老化作用、(2)免疫能の増強作用、(3)糖質代謝の改善効果、(4)水分や電解質代謝の調整作用、(5)脂質代謝の改善作用・コレステロールの回転率促進作用・動脈硬化の防止作用、(6)白内障発症時期の遅延作用・水晶体中の混濁遅延作用、(7)視神経伝達の改善作用、(8)皮膚機能の促進作用、(9)膀胱から青斑核に到る感覚性求心路に作用し、排尿反射を抑制するが、排尿反射における遠心路には作用しない、(10)コリン作動性神経系に作用することで学習能を改善する、(11)骨吸収亢進の抑制と骨形成系の機能促進作用。 
【臨床応用】
本方は、腰や下肢がだるくて力がない、四肢の冷え、寒がり、頻尿、排尿困難、夜間多尿などが本方を投与するポイントである。
(1)糖尿病:腰や下肢の脱力感、腰痛、四肢の冷え、寒がり、頻尿などの症状を伴う場合には本方を投与すると、糖質代謝と臨床症状の改善が得られる。網膜脱落の症状が見られる場合には八味地黄丸合四物湯を投与する。四肢のしびれ、冷感、疼痛などの末梢神経障害症状があれば、八味地黄丸合桂枝茯苓丸を用いる。
(2)甲状腺機能低下:本方は、寒がり、四肢の冷え、腰や下肢の脱力感、浮腫などの症状が見られる場合に適応する。
(3)リュウマチ性関節炎:本方は腰や膝の脱力感、関節の冷感や痛み、寒がり、四肢の冷え、浮腫などの症状が見られる場合に用いられる。お関節の痛みや浮腫がひどい場合には八味地黄丸合防己黄耆湯を投与する。
(4)気管支喘息:本方は喘息、腰や下肢の脱力感、めまい、耳なり、寒がり、自汗、四肢の冷えなどの症状が見られる場合に適応する。特に老人の喘息に対して体質の改善、発作の予防などの効果が得られる。
(5)腎炎、ネフローゼ:腰や下肢の脱力感、手足の冷え、寒がり、浮腫、蛋白尿、高血圧などの症状が見られる場合に適応する。
(6)男性不妊症:精子の数が少ない、あるいは精子活動率の低下などが見られる患者に、腰や下肢の脱力感、自汗、手足の冷え、寒がりなどの症状を伴う場合に本方を投与すると、精子活動率や臨床症状などの改善が得られる。
(7)前立腺肥大症、慢性前立腺炎、慢性膀胱炎:排尿困難、残尿感、昼間あるいは夜間頻尿、排尿時不快感、陰部不快感、腰や下肢の脱力感、手足の冷え、寒がりなどの症状が見られる場合には本方が有効である。前立腺肥大症に対して前立腺腫そのものの縮小は少ないが
(8)更年期症候群:本方は、腰や下肢の脱力感、めまい、耳なり、寒がり、頻尿、夜間多尿、物忘れやすい、手足の冷えなどの症状が見られる場合に適応する。
(9)腰痛:腰部に冷感、痛みがあり、腰や下肢の脱力感、寒がり、頻尿、夜間多尿、手足の冷えなどの症状が見られる場合に適応する。
(10)高プロラクチン血症性不妊症:血中にプロラクチン値が30ng/ml以上である女性不妊症の患者に、腰や下肢の脱力感、寒がり、手足の冷えなどの症状を伴う場合に本方を投与すると、血中のプロラクチン値が下がり、妊娠することができることが報告された。
(11)骨粗鬆症:更年期に入ると、骨粗鬆症があり、腰部の冷感や痛み、腰や下肢の脱力感、寒がり、頻尿、夜間多尿、手足の冷えなどの症状が見られる場合に本方を投与すると、骨塩量の増加や臨床症状の改善などが得られる。
(12)白内障:白内障の患者に、腰痛、腰や下肢の脱力感、寒がり、頻尿、夜間多尿、手足の冷えなどの症状を伴う場合に適応する。
(13)老人性膣炎、萎縮性膣炎:血性帯下・白色帯下などの症状が見られ、腰部の冷感や痛み、腰や下肢の脱力感、手足の冷えなどの症状を伴う場合には本方を投与するとその症状の改善が期待できる。
(14)老化・老年性痴呆:物の忘れ、意欲低下、焦燥感、不眠、腰痛、腰や下肢の脱力感、夜間多尿、尿失禁、手足の冷えなどの症状を伴う場合に本方を投与すると臨床症状の改善が期待できる。
(15)歯の痛み:歯科の検査によって異常が見られないが、歯が痛くて硬いものを食べられず、歯動揺などの歯の症状に、腰や下肢の脱力感、寒がり、夜間多尿、手足の冷えなどの症状を伴う場合に本方を投与すると優れた効果が得られる。
【使用上の注意】
1、口や咽喉部の乾燥感、舌質は紅、舌苔は少ないなどの虚火上炎の症状が見られる場合には投与しない。
2、胃腸が弱く、軟便や下痢などが見られる場合には慎重に投与すべきである。

【関連処方】
(1)牛車腎気丸:八味地黄丸+車前子、牛膝。(温補腎陽、利水消腫)