【出典】金匱要略
【組成】桂枝、茯苓、芍薬、桃仁、牡丹皮   
【効能】活血化瘀、緩消癥塊
【主治・適応症】
(1) 婦人瘀血証:
下腹部の腫瘍、月経困難、月経痛、無月経、不正性出血、子宮内膜症などに、下腹部の疼痛や圧痛抵抗などの症状を伴うもの、舌質は紫暗あるいは瘀斑、脈は渋あるいは弦。
(2) 血瘀証(男女を問わず一般的な瘀血状態に用いてもよい):
四肢のしびれや痛み、冷え、静脈の拡張や蛇行、皮膚の瘀斑、関節の痛み、打撲による瘀血、頭痛、肩こりなどの一般的な瘀血症候があるもの、舌質は紫暗あるいは瘀斑、脈は渋あるいは弦。
【処方解説】
元来は、婦人瘀血証(子宮や卵巣の腫瘍・子宮内膜症による不正性出血・月経困難など)に設計された処方である。
桂枝は辛温で温経散寒・温陽化気の効能を持ち、血脈を温通して血瘀・水湿を消去させる。茯苓は淡滲で健脾利水の作用があり、水湿を下行させる。芍薬は行血去瘀・緩急止痛に、桃仁は活血破瘀・消癥散結に、牡丹皮は涼血散瘀に働き、瘀血を除くとともに瘀熱を清熱する。全体で血脈を温通して瘀血・湿滞を除き、癥塊を緩消する効果が得られる。

【参考】
本方は、瘀血モデル動物を用いる現代薬理研究によって、以下のことが証明されている。
1、 血液凝固能の亢進、血液粘度の上昇、過酸化脂質の上昇などを抑制する。
2、 赤血球変形能の低下を改善する。
3、 血液循環改善作用と抗血栓作用がある。
4、 子宮筋腫や子宮内膜症を減少させ、乳腺の腫瘍化と腫瘍増殖を抑制する。
5、 高プロラクチン血症モデル動物の薬理研究によって桂枝茯苓丸は血中テストステロンを有意に低下させた。
6、 抗炎症作用など。
血瘀とは、鬱血、病理的産物(腫瘍、ポリープ、癌など)、微小循環障害、血液凝固線溶異常などにより現れる症候群であると考えられている。また血液粘度、血漿粘度の亢進、赤血球の流動性の低下、赤血球変形能の低下、赤血球膜の脆弱化、血管内赤血球集合、血流の局所的停止などが高頻度で観察される病態ともいわれる。桂枝茯苓丸は駆瘀血作用を主とする生薬により滞血、瘀血、凝血、鬱血、炎症性緊張などの病態に対し、血液循環を改善することで緩解、消失させるものである。

【臨床応用】
婦人瘀血証(下腹部の腫瘍、月経困難、月経痛、無月経、不正性出血、子宮内膜症など)に対して、下腹部の疼痛や圧痛抵抗などの症状を伴う場合には本方を用いる。
また、男女を問わず一般的な瘀血の症候(四肢のしびれや痛み、冷え、静脈の拡張や蛇行、皮膚の瘀斑、打撲による瘀血、肩こり、半身不随など)を認めれば本方を用いてもよい。
1、痔疾患:
痔や痔核などにより、肛門部の腫れ・疼痛が見られ、痔核が腫れて色が紫暗で、痛みが強い場合には桂枝茯苓丸合乙字湯を用いる。産後の痔疾、会陰切開縫合部の局所的疼痛に対してもよい効果が得られる。
2、婦人瘀血証(月経困難、月経痛、無月経、不正性出血、子宮内膜症、子宮筋腫や卵
巣腫瘍の初期、産後子宮復古不全、死胎、骨盤内炎症、乳腺腫瘍など):
下腹部の痛みや冷え、局部の圧痛や抵抗、四肢の冷え、舌質の紫暗あるいは瘀斑、舌のうらに静脈の拡張や蛇行などの瘀血症候を認める場合には本方を投与する。
3、四肢のしびれや痛み:
四肢にしびれや疼痛が見られ、寒がり、手足の冷え、舌質の紫暗あるいは瘀斑などの症候を伴う場合には本方を用いるとよい効果が得られる。体がだるく疲れやすいなどの症状を伴うときには防已黄耆湯合桂枝茯苓丸を投与する。胃腸が弱い、体がだるくて疲れやすい、食欲不振などの症状を伴う場合には六君子湯合桂枝茯苓丸を用いる。胃腸が弱い、腹部の冷えや冷感などの症状を伴う場合には人参湯合桂枝茯苓丸あるいは附子理中丸合桂枝茯苓丸を用いる。
4、変形性膝関節症:
関節の痛みが激しい、夜になるとひどくて眠れない、関節の冷え、局部を温めると痛みが軽減されるなどの症候が見られる場合には桂枝茯苓丸合薏苡仁湯を投与する。疲労倦怠感を伴う場合には桂枝茯苓丸合防已黄耆湯を用いる。関節水腫を伴うときには桂枝茯苓丸合五苓散を用いる。
5、リウマチ性関節症:
四肢の関節に皮膚が紫暗で、痛みが固定して激しい、関節を触ると冷感があり、四肢の冷え、寒がり、舌質の紫暗あるいは瘀斑などの症状が見られる場合には本方を投与する。疲労倦怠感などを伴う場合には桂枝茯苓丸合防已黄耆湯を用いる。
6、慢性肝炎、肝硬変:
顔色の灰暗、舌質の紫暗あるいは瘀斑、右側脇部や上腹部の圧痛や抵抗、四肢の冷えなどの症状を認める場合には桂枝茯苓丸合小柴胡湯を投与する。胃腸が弱い、体がだるくて疲れやすい、食欲不振などの症状を伴う場合には桂枝茯苓丸合六君子湯を用いる。
7、慢性前立腺炎、前立腺肥大:
排尿困難、排尿後の不快感、残尿感、舌質の紫暗あるいは瘀斑などの症状が見られるときに桂枝茯苓丸合猪苓湯を投与する。
8、慢性多発性神経炎:
手足末梢のしびれ・痛み・冷え、舌質の紫暗あるいは瘀斑などの症状を伴う場合には本方を用いる。手のこわばりやむくみ、体の疲労倦怠感を伴う場合には桂枝茯苓丸合防已黄耆湯を投与する。
9、坐骨神経痛:
腰椎間板ヘルニアやすべり症が長引く、下肢のしびれ・痛みがあり、夜になると痛みがひどくて眠れない、手足の冷え、下肢の脱力感、舌質の紫暗あるいは瘀斑などの症状を認める場合には桂枝茯苓丸合牛車腎気丸を用いる。
10、強直性脊椎炎、脊椎狭窄症:
腰や背中にこわばりや痛みが激しい、腰の活動制限、四肢の冷え、舌質の紫暗あるいは瘀斑などの症状が見られる場合には本方を投与する。首のこわばりや痛みがひどい場合には桂枝茯苓丸合葛根湯を用いる。腰や下肢のこわばりや痛みがひどい場合には桂枝茯苓丸合牛車腎気丸を用いる。
11、脳梗塞・脳出血後遺症:
半身不随、麻痺側の上肢あるいは下肢にしびれ・痛み・浮腫・冷えなどの症状が見られる場合には本方を投与する。胃腸が弱くて食欲不振があるときには桂枝茯苓丸合六君子湯を用いる。
12、他に、慢性腎炎、レイノー症候群、閉塞性血栓血管炎、血栓性静脈炎、全身性進行性硬化症、肩こり、頭痛、打撲などの疾患に、四肢の冷え、舌質の紫暗あるいは瘀斑、舌うらの静脈拡張や蛇行、皮膚の瘀斑などの瘀血症状が見られる場合には本方を投与してもよい。

【使用上の注意】
(1)妊婦には本方の投与を禁忌する。
(2)出血疾患や月経量過多の患者には慎重に投与する必要がある。
(3)本方は空咳や咽喉部の乾燥感などの陰虚症状が見られる場合には投与しない。
(4)著しく体力の衰えている患者や胃腸の弱い患者には慎重に投与する。