【出典】金匱要略
【組成】大黄、牡丹皮、桃仁、冬瓜仁、芒硝
【効能】瀉熱破瘀、散結消腫。
【主治】腸癰(虫垂炎)初期。
腸癰の初期に、右下腹部の疼痛・圧痛・抵抗があり、しばしば悪寒、発熱、汗がでる、右下肢を屈曲する、舌苔が薄黄あるいは黄膩、脈が弦数又は滑数など。
【処方解説】
熱毒が腸に薀結して気血の流れを瘀滞させ癰を形成した初期には、瀉熱破瘀の処方を用いて腸癰を消散させることが大切である。本方は苦寒瀉下・利湿・活血化瘀の三面の生薬から構成される。大黄は苦寒で瀉熱・解毒・活血に働き、牡丹皮は清熱涼血・活血化瘀の効能があり、両者の配合で腸中の熱毒を瀉下し、主薬となる。芒硝は瀉下通便・軟堅散結の効能があり、大黄の瀉熱作用を促進する。桃仁は破血散瘀に働き、大黄・牡丹皮の活血散瘀を強める。冬瓜仁は清熱・排膿・散癰の効能があり、内癰を治療する主な生薬として知られる。全体で苦寒瀉下・清熱涼血・活血化瘀の効能が得られ、熱毒瘀滞を除き、癰腫を消散させ、血行を改善して諸症状を解消する。

【参考】
現代薬理研究によって、以下の作用が証明されている。
1、 腸運動に対する影響:本方はウサギとイヌの腸蠕動を促進し、特に盲腸のリズム性収縮や結腸の蠕動を増強する。また本方はイヌの腸管血管を拡張し、腸管と盲腸の血行改善や炎症軽減を促進することが報告されている。
2、 免疫能の増強作用:本方中の大黄・牡丹皮は白血球の貪食活性やマクロファージ活性化を促進する作用がある。また本方はウサギの実験性盲腸炎に対して上述細胞の免疫活性を増強したことを報告している。
3、 抗炎症作用:本方中の大黄・牡丹皮・桃仁・芒硝などは抗炎症作用があり、特に炎症性滲出を抑制することが特徴である。また大黄・牡丹皮は病原菌微生物を抑制する作用が報告されている。
以上の薬理作用は盲腸炎の初期に現れる腸蠕動の弱い、盲腸局部の梗塞、血行障害、局部免疫能の低下、細菌の増殖などの病理病態に対して重用な役割を果たすことが考えられる。

【臨床応用】
本方は瀉下・清熱・活血の効能があるが、瀉下作用が一番強い。臨床では急性盲腸炎に効果があり、他の腹部炎症に対しても効果が得られる。
1、血栓性外痔:
外痔で局部の腫脹、疼痛、発熱、排便困難などの症候が見られる場合には大黄牡丹皮湯合桂枝茯苓丸を投与すると優れる効果が得られる。
2、急性虫垂炎:
本方は腸癰(虫垂炎)を治療する名方として広く使われ、臨床では主に腸癰初期で化膿しないものを治療するが、治験によって盲腸の化膿があるかないか関係なく本方を投与し、90%以上の治療効果が得られる。特に急性単純性虫垂炎の初期に優れる効果がある。抗生剤を併用するともっと効果を高めることが報告されている。服用方法としては、4時間一回投与し、便通が見られるまで続き、便通があれば一日三回を変更することは有効な方法であると考えられる。
3、急性胆道感染症、胆道回虫、膵臓炎、イレウス:
発熱、便秘、腹痛、腹部膨満感などの症候が見られる場合には本方を投与する。胆道感染症に黄疸を伴う場合には茵蔯蒿湯を併用する。粘着性イレウス20例に本方を投与して治療したことによって治癒18例であり、2例が手術治療に移ったことを報告している。
4、その他:
麦粒腫、流行性出血性結膜炎、前列腺肥大症、骨盤内炎症などで、便秘、発熱あるいは局部の熱感・腫脹を呈する場合にも用いる。

【使用上の注意】
1、四肢や関節の冷え、寒がりなどが見られる場合には本方を投与しない。
2、著しく体力の衰えている患者、胃腸の弱い患者、下痢傾向がある患者に投与しない。